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Red Hearts 25話

第25話『時間は待ってくれない』

ガラッ……。

どこかで岩をどかす音がした。
その中から出てきたのは男の影、クロス・セイヴァーだった。

「いってて、なんだってこんな事に……」

闘技場の元は控え室だった場所でクロスは目覚めた。
今は原型をとどめておらず瓦礫の山となっている。

「さて……外はどうなってんだ?」

瓦礫の山から抜け出すなり外の世界を確認するクロス。

「ありゃまー……派手に壊されちゃってまぁ……何をどうしたらこうなるのやら」

どこの景色をみても闘技場には見えなかった。

「しかし、こんなところにいても何かわかるわけじゃないし、誰か人はいねぇのかな……」

状況把握のために人探しを始めようとした、その時だった。
突然クロスが何かに気づいたかのごとく辺りを急に見渡し始めた。
冷や汗も出ている。

「この独特な気の流れ……間違いない、あのお方が来ているのだろうか」

クロスはすぐさまその気が発せられている場所へと、川の流れを辿るように歩き始める。





「俺の勘が正しければこの先に……」

その先に視線を向けると、何やら数十人に近い数の人だかりがそこにはあった。

一人が先頭に立ち、何やら指示を送っている。
その指示に従うかのように、一人のリーダー格らしき存在に敬礼をしたあと、その場を散開していった。
どうやら何かの軍隊のようだった。

「一人だけになった、今か」

クロスはスッと飛び出し、そのリーダー格らしき存在に近づく。

しかし、近づけば近づく程、クロスから滴り落ちる冷や汗が尋常ではないものになっていた。
服が汗ばんでしまっている。

「そこにいるのは……」

気づかれてしまったようだ。

だが、クロスは始めから逃げるつもりでもなかった。
戦うつもりでもない。
その声色で何者かを悟る事が出来た。

「なんだ、出来損ないか」

そう、クロスはこの男を知っていたのだ。

「……皇帝様、お久しぶりです。
No.001のクロス・セイヴァーです」

頭を垂れ、挨拶をする。

しかし皇帝と呼ばれたこの男は呆れ顔で、

「No.001……最初にして最高の出来損ないが何しに来た?
試合を見させてもらったが、俺の顔に泥を塗るようなことをするな」

怒鳴るような声で皇帝はクロスへと言った。

「すみません。
ですが、“アビス”を使う程の事ではないと……それに、俺は今のままが幸せなんです」

フンと鼻で笑い、蔑んだ目をクロスへと送る皇帝。

「アビスも使えない上に、今のままがいいとは、とことん出来損ないなんだな。
他の兵士を見てみろ、お前とは違い、命令も従うしアビスも使いこなす。
お前のように欲望に生きるやつは他にはいない」

クロスはそれでも反論した。

「しかし……俺は知ってしまったんです。
五年前、アビスを使ってしまったばかりに失ってしまったものがあったばかりに」

顔を皇帝から逸らし、俯く。

「だからお前は出来損ないだと言うのだ。
感情に流される暇はお前になど無いはずだ。
アビス……体の封印を解除し、自我が無くなる代わりに大いなる力を得るのだぞ。
戦いの前に無心になれぬお前はやはり出来損ないだ」

そう吐き捨て、皇帝はその場から立ち去ろうとした。

「アビス……使わなければなりませんか、どうしても」

その言葉に、皇帝は足を止め、返答をする。

「使え、そして勝利しろ。
これから起こる出来事には、アビス無しでは生き残れないし守る者も守れんぞ。
お前の自由な所は嫌いじゃあない、お前の甘い所が嫌いなだけだ」

そういい残し、皇帝は去っていった。

「アビス……か。
使う時が来るのか?俺に……」





一方、リオナは外の世界にただ呆然と眺めているだけだった。

「これは……おっさんが言ってたのも、嘘じゃなかったってことか……それにさっきから……この風景は見た事があるようなないような……気のせい、だよな」

記憶の中にありそうな一つの風景。
彼女の心臓は先ほどから高鳴ってばかりだった。

ここで風景ばかり見ているわけにはいかないと、歩き始めたその時、足が何かに引っかかった気がした。
彼女は恐る恐る足元を見てみると、瓦礫の中から腕が伸びていた。

その光景を見た瞬間、リオナの脳内には確実に何かが過ぎった。
冷や汗が止まらない。
嗅いだ事のある、焼ける匂い……。

それが何処でかというのは彼女には思い出せない。
その伸びている腕からは生存反応はない。
冷えてしまっているその腕を触り、リオナからは絶望の表情にも近い表情が浮かんだ。
そのまま声も上げず、彼女はダッとその場から走り去ってしまった。
どうしてこんなにモヤモヤとしているのだろう。
思い出したくても思い出せないという苛立つ感情が、彼女をその場から走らせたのだ。





暫く走り続け―。

辿り着いた先は闘技場の食堂だった場所。
この場所は爆心地に近いという事もあり、跡形はほとんど無い。

「何にも……なくなってる」

言葉がそれ以上浮かばない。
気がついたら、唐揚げを食べていたここに足が運んでしまっていた。

と、ここで地震が起こったかの如く地が揺れているのをリオナは足元で感じた。
それも何度も何度も。
早い周期でやってくるこの地震みたいなものは、食堂を超え、闘技場内だった場所で起こっているという事がなんとなく彼女にはわかった。

「この奥で、誰かが戦っているのだろうか」

その足を進ませるリオナ。

そして、彼女は遂に見てしまった。
奥で戦う赤髪の戦士と、黒い鎧を身に纏い戦う二つの影を。

「親……父?」

すぐにその単語が出た。

更に近づこうとした所で、後ろから肩をポンと何者かに叩かれる。
誰かと思い、後ろを見てみれば、茶髪で黒褐色の男、先ほどクロスと話をしていた皇帝の姿がそこにあった。

「……お前か。
あの男の娘とやらは。
これ以上は進むな。
お前にはまだ踏み越えられない領域だ。
それでも見たいというのならここにいろ」

皇帝が呟いたあの男の娘という言葉。
その言葉で、目の前にいる赤髪の男は実の父、ガイだと言うことにリオナは確信を持った。

そのまま皇帝は、奥で戦っている二人の下へ、歩き出す。
そしてガイとゾランダドスもその皇帝の姿に気づいたのか、お互いに距離を引き離した。

「調子に乗るなよ、ゾル」

皇帝はゾランダドスの事をそう呼んだ。
ゾルはニヤリと口を歪ませ、

「フン、体たらくな日々をのんのんと過ごしている貴様には言われる筋合いはない。
首輪つきの分際で調子に乗っているのは貴様の方だ」

その言葉に、皇帝はゾルを睨み付けた。

フンと鼻で笑い、彼はガイの元へと近づく。

「おい、ここは俺に代われ。
この阿呆は俺が消す。
ガイ、お前はあそこにいる娘さんに感動の再会とやらをしてきたらどうだ」

皇帝はリオナのいる方向を指し示し、ガイに伝える。

「感動……ね。
悲劇かもしれんな」

「それをどう受け止めるかは娘次第だ。
それに、時は待ってはくれん。
お前がいつまでもそうしているからこうやって引き合わせたのかもしれんぞ」

皇帝はそう言って視線をゾルの方へと戻す。

「ゾル、お前の相手は俺だ。
俺はガイの様には甘くはない。
一瞬の油断がお前の命を抹消する事になる」

クックックと、ゾルは笑い始めた。

「いいだろう。
貴様が来るとは少し計画が狂ったが、倒せば良いだけの話。
世間の記憶から抹消されるのは貴様の方だ」

「笑止千万!ならばその減らず口を今すぐ叩き伏せてやろう、ゾルよ!!」

皇帝とゾル、両雄の戦いが始まった。





その隙に、ガイはリオナの方へと近寄る。

(今はまだ会う時じゃないんだがな……俺の事見ちまったならどうしようもねえか)

腹をくくり、ガイは実の娘、リオナへと話しかける。

「よぉ、リオナ。
……元気だったか」

その言葉と同時に、リオナの目頭が熱くなり、大粒の涙が流れる。

「バカ……親父……バカ親父!!」

そのままリオナは父の胸の中に飛び込んだ。

ガイは泣き叫ぶリオナを抱きしめ、一言言った。

「悪い……」

と。





リオナが泣き止み、そして抱いた疑問を一つ、ガイへと問う。

「なぁ……親父、お母さんは……どこ?今何してる?元気?」

その質問に、ガイの顔が曇った。
一番話したくない事をこれからリオナに話さなければならないのだろうかと。
あまりにも残酷すぎる運命をガイは恨んだ。

(皇帝の言うとおり、俺がまだだと思っても、時間は待ってくれないんだな……)

覚悟を決めるしかなかった。

ガイはリオナの方へ向き、両肩を掴み、リオナへと答える。

「リオナ……黙って聞いてくれ。
お前の母さんは……」

その言葉に、固唾を飲んで待つリオナ。

その半分、これ以上聞いてはいけない気がリオナにはしていた。

そして、ガイはそれ以上の言葉を紡いだ。





「もう、この世にはいないんだ」





ああ、教えたくなかった、できればもっと成長したリオナに教えたかった、と彼の心の中では後悔が渦巻いていた。
彼の中でそれが今では叶わぬものになってしまった。
ガイの顔は更に俯く。

リオナからは……表情が消えていた。
疑う顔などではなく、無くなっていた。
そう、今まで忘れていたものを、思い出してしまったのだ。
最初からリオナは知っていた。
重すぎる現実から逃れるため、リオナの中にある人間的本能が、その悲しみの記憶を消していただけだったのだ。

ガイはリオナをギュッと抱きしめ、ごめんな、ごめんな、と呟いていた。

いつの間にかリオナの目からは、涙が止まらなくなっていた―。

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