第23話『革新の時だ』
【第5章 -武術大会後編-】
「フン、そろそろ仕掛けるか」
その野太い声にひかれるように、
「ええ、では俺は東から攻めさせてもらいますよ」
「では私は西からですわね」
中心のリーダー格を挟むように、左側には男、右側には女らしき影が立っている。
「フン……ではまずは私が一気に駆逐する。
その後に続けィ」
その言葉に、
「御意」
「仰せのままに」
と二つの影は頷く。
リーダーらしき存在は、肩を揺らし笑いながら、
「クックック、往くぞ……“首輪付き”に贈る、革新の時だ」
一方、ティニー達は、レヴィアに敗れそのまま意識を失ったままのリオナの看病にと、病室に来ていた。
「あ、あの……お姉ちゃんは大丈夫なのでしょうか……?」
ティニーの問に、医者はコクリと頷き、
「ああ、彼女の生命力も半端ではないですが、傷をつけた相手のレヴィア君に感謝すべきですね。
治しやすい傷の付き方ですよ。ここまでの時間が短く済みましたよ」
医者は笑顔でそう言った。
ティニー達は胸を撫で下ろした気分になった。
「はぁ、よかったー。
なんだかんだであのレヴィアって人、そんな悪い人でもなさそうよね、ティニー君」
「誰が悪そうなんですか?あなた達」
リィナの言葉の後に続いたのは聞き覚えのある声、レヴィア本人が後ろから近づいてきていた。
「あっ、えっと、そのっ!
わ、悪い人をさっきそこで見かけたんですよ~!あはは……」
何とかしてはぐらかそうとしたリィナだったがレヴィアは溜息をつく。
「私の用事はリオナさんの状態を見に来る事ですので。
彼女は今どうですか?」
その質問に、医者が答える。
「良好です。
あとは目を覚ます事と、残った傷が完治するのを待つだけです」
「そう」
簡単に答えただけのレヴィアだったが、ティニーには彼女の顔が何処か微笑んでいたように見えた。
「それだけです。
では私はこれからやる事があるので失礼しま……」
ザザッ……キーン……。
マイクがノイズを上げたかのような音が突然鳴った。
「?おかしいですね、今は休憩のはずですから、マイク音はしないはずなのですが……マイクテストでしょうか」
しかしそれがただのマイクテスト出ない事が分かった。
聞いた事の無い声が闘技場、町を含め野太い声が響き渡る。
≪クックックック……人間よ、愚かな事をまたやっているらしいな?
貴様らはいつまでたっても首輪付きなのだな。
だから……こんな愚かな世界は……私が破壊するッ!!!≫
(ま、まさか……早すぎます!
こんなタイミングでは……!!)
元々病室にある、大会を見るための道具の一つとして使われている魔道で動かすホログラムの装置から映像が現れる。
鎧に覆われた生物らしきものが、大きな斧を持ち、天高く構えている。
そのまま空を遠心力による回転を起こしながら、地上へとその斧を力一杯叩き付けた。
その刹那、ホログラムが真っ白な光に包まれ何も見えなくなった。
「……!!私の近くへ急いできてください!
リオナさんもここまで運んでください!!早く!!!」
レヴィアのその声とともに、リオナをリィナが抱え、ティニー、エレ、医者、五人全員が、物陰で待機しているレヴィアの元へ集まった。
「アクアシールドッ!!
爆風も来るのでなるべく伏せてください!!」
そしてそれは言葉通りとなった……。
周囲が光につつまれ、その中には逃げ遅れた人達が吹き飛ばされ、灰となり、浄化されていく様も見えた。
様々な想い、様々な形が、全て光となって闇の中へと消えた瞬間だった。
爆発が収まり、光が収まる。
そこには見るも無残な光景が広がっていた。
あれほど活気付いていたブルク城闘技場が、そして町までもがたった一人によって全て破壊されていた。
建物も所々から火を出し燃え、所々からむせるような臭いが立ち込めてくる。
その爆発にようやく上空から降りて来る人影が見えた。
それはG-Aが誇る最強のランク、SやSSを含めた人達だった。
全員が上手く着地し、その中心から一つの掛け声が聞こえる。
その声はまさにガイ本人の声だった。
「これ以上の被害は食い止めるぞッ!!
お前達は東へ回れ、お前達は西をあたってくれ!」
オオーッ!!と高らかに雄叫びが各方面からあがると、ガイを中心に散開した。
そしてガイと他二名のみがその場に残ったかと思うと、隣の二人はガイへコクリと頷きそのまま真っ直ぐ走っていった。
一人残ったガイのみがティニー達の方へとゆっくりと近寄り、付近のG-Aへと呼びかける。
「お前らCからBは傷ついた者、患者達を地下の施設へ運んでくれ。
戦闘にすぐにでも参加出きる者は参加してくれ!
医者のおっさんよ、こいつらに案内を頼んだぜ」
そう指示すると、医者の男はガイへコクリと頷き、
「こちらです、ついてきてください」
周囲のBランク以下の戦闘に参加しない者だけを引きつれ、地下施設へと歩き出したのだった。
「レヴィア、ティニー、とあと電波女とお喋り女」
ガイの言葉にエレはまんざらでも無さそうだったがリィナは、
「ちょっと!お喋り女ってどういうことよっ!!
いくら剣豪だからって失礼ですよ!!
私はリィナで、こっちの子はエレ!」
と威嚇しながら喋るリィナだったが、ガイの表情には反省の色はなさそうだった。
「わりーわりー、そこのティニーからちゃんとした話し聞いてなくてな」
「そこのティニーって……えっ、ティニー君、ガイさんと会ったことあったの?」
驚いた表情を見せたリィナに、ティニーは首を縦に振る。
「まあ、とにかくだ。
俺はお前らに一つ礼をしなきゃいけねえ」
ガイはそう言うも、レヴィア達には突拍子も無い事で理解できないでいた。
「礼……?今こんな状況でですか?」
「こんな状況だからだ。
お前らには次いつ会えるかわからねえ。
シリアスな状況ってのは理解しているつもりだ。
けど、言わせてくれ」
深刻な表情をするガイ。
そして彼は次の言葉を紡ぐ。
「リオナの友達でいてくれて、ありがとよ……これからもコイツの友達でいてやってくれ」
寝たままのリオナの寝顔を見ながら、穏やかな表情でガイはそう言った。
「か……勘違いしないでください、私は別に友達ってわけじゃ……」
照れを隠しながら困っているレヴィアにリィナはぎゅっと肩で抱き、
「いいじゃないっ!
あなただってそう思ってるからリオナちゃんに勝負挑んだんでしょ?
“ケンカする程仲が良い”って言うじゃないの!」
「それは……そのっ……そんなことありませんっ!」
更に照れ、必死に言い返すレヴィアを見て、その場の全員が笑っていた。
「……ふぅ、じゃあ、すまねえが俺はこれからやる事がある。
のんびりしていられる時間もねえ。
リオナを地下施設に運んであげてくれ。
じゃあな、お前ら」
ビッと額に指を当て、別れの挨拶を投げその場を離れようとしたその瞬間、リィナから声が上がった。
「待って!!」
その声で、ガイは動かそうとしていた足を止めた。
リィナは抱え込んでいた質問をついに言の葉に紡いだ。
「リオナちゃんが目覚めるまで、待てないんですか?
こんなに健気に、真っ直ぐに歩いてきて……それなのに」
その質問に、ふぅ、とガイは一呼吸置く。
「……悪いな。
まだ顔を合わせるわけにゃいかねえ。
時が来るまでは会う事は出来ないんだよ。
まぁけど……」
ボリボリと頭を掻き、ガイは考えてから、
「しゃあねえ、顔を眺める程度なら」
そう言い、彼は眠ったままのリオナに近寄り腰を下ろす。
「くっくっく、リオナ、お前の親父が今目の前にいやがるのに、ぐっすりとバカ面で寝やがって。
まったく……可愛いところは丸っきり変わってないな」
そっと、ガイはリオナの頭を起こさないように撫でる。
「んん……親父……母……さん……置いてかないでくれよ……」
リオナが目覚めてしまったのか、とガイは思ったがどうやら彼女の寝言のようだった。
撫でていた手を離し、
「ゴメンなリオナ。
俺にはまだやるべき事がある。
それが終わるまで……待っててくれ」
そう言い残すと、スッと立ち上がり、再びティニー達の方へと振り向いた。
「リオナを……頼んだぞ、お前ら」
ガイはその言葉とともに、その場を走り去っていく。
ティニー達は憂いを帯びた表情をした彼を見送ることしか出来なかった。
「……見送りはもういいでしょう。
私はリオナさんを地下施設まで運びます。
エレッサさん、あなたは埋もれた人々の思念を読む事に専念してください。
ティニーさんとリィナさんは彼女の手伝いをしてください。
そうすれば仕事は早いはずです。
終わり次第、戦闘に参加してください。
私も直ぐに向かいますので……」
「あっ、ちょっと!」
引きとめようとしたリィナの言葉を流し、レヴィアはすぐさまその場からリオナを背中に抱えて地下施設へと向かっていった。
「むぅ……仕方ないか……じゃあエレちゃん、早速お願い。
ティニー君と私で、埋まっている人掘り出すから」
リィナがそう言うとエレは頷き、意識を集中させる。
埋もれている人の中にも重傷を負い一刻を争う人がいるかもしれない。
そう考えるならば急ぐ必要がある。
「うん、急いで探そう!」
そうして三人はレヴィアの指示通りに動き始めるのだった。
その一方、リオナを抱えたままのレヴィアは数分間走った先でようやく地下施設へとたどり着く。
医務室へと入るなり、背中に抱えたままのリオナをベッドの上へと寝かせる。
レヴィアは医者の方へ向き、
「それではお医者様、リオナさんや……他の患者様を宜しくお願いします」
軽くお辞儀をし医者へと頼みこむ。
「もちろんです。
それが医者である私達の仕事です。
レヴィア君、引き続き地上をお願いします」
医者の一言に、彼女は首を縦にうなずき、部屋を出る。
「リヒカイト……そしてゾランダドス……あなた達の横暴はこれ以上は私達がさせません」
レヴィアは拳をぎゅっと握りしめ、地上へと足を進めるのであった。
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- 2009-02-03
- 【RH】武術大会後編
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