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Red Hearts 22話

第22話『そんな事ない』

長きに渡るリオナとレヴィアの戦いは決着を迎えようとしていた。





が、ティニーの方はというとタイミング悪くトイレへと駆けつけていたのだった。

(は、早くしないとお姉ちゃんの試合見れなくなっちゃうよ~……)

そう思いながら急いで用を足す。
焦っているティニーのその隣で同じく用を足している赤髪の男がもう一人いた。

慌てるティニーの姿を見て話しかける。

「よお坊主、そんなに焦っちまって、裾に小便かかってもしらねえぞ」

緩い男の発言に耳を貸すティニー。
急いでいるティニーには、

「そ、そんな事言ったって」

としか返す事が出来ない。
男はゆっくりと話を続ける。

「決勝戦……か。リオナの奴、頑張ってるみたいで安心したぜ」

男のその言葉に、ティニーは思わず驚いた。

(この人もお姉ちゃんの事を知ってる……?)

そう思った頃には既に彼に質問をしていた。

「お、お姉ちゃんの事知ってるんですか?」

男はその質問に対し鼻で笑い、

「はっ、当たり前だろ、俺を誰だと思っていやがる?
天下無敵の熱い男、ガイ・レッドハートとは俺様の事よ。
リオナは俺の愛娘だよバカタレ」

用を足しながら親指で自身を突き立てた。
ティニーにとって、ガイという存在は実際初めて見る存在だったのだ。

(こ、この人がお姉ちゃんのお父さん……なの?)

疑問気に思いながらも探してみれば彼とリオナの類似点がいくつか見つかる。
赤い髪、話し方、そして何よりもリオナに感じた覇気というものがこの男からも感じられた。

「お前、リオナの何なんだ?」

ガイは穏やかな顔と話方でティニーへと問う。
ティニーも勿論正直に答える。

「僕はお姉ちゃんの……相棒、なのかな?
実感はあんまりないんだけど……あはは、お姉ちゃんよく言ってくれるから、嬉しかったり……」

鼻を掻きながら顔を微笑ませ、答える。
ガイもニヤリと笑み、

「そうかい、信頼し合ってるみてえだなお前ら……リオナに同行者がいるっつー噂聞いてたからどんなやつかと思ったが、また一つ安心したぜ」

ガイは足し終わり、その場から出て行こうとしたがその前に一旦ティニーの方へと振り返り、質問を投げる。

「お前、名前教えてくれ」

その質問にティニーはニコリと笑い、

「ティニー、ティニー・ブレイブスです」

ガイはティニーの名前に、フッと鼻で笑う。

「成る程、小さな勇気ってわけか?
お前の親父さんもいい名前付けんじゃねえか。
もしかして俺に似てんじゃねえか?ハッハッハッハ!!」

と、ガイはトイレ内で声をあげて笑う。

「さてと、ティニーつったか?
俺は生憎とリオナにまだ顔合わせは出来ねえようになってんだ。
俺の代わりにティニー、お前はリオナの傍で見守ってやってくれねえか。
あいつは……性格は俺に似てっけど、俺とは違って崩れやすい奴だからな。
まだあいつにはこれからの“試練”に耐えられるだけの芯がねえ。
だから……あいつが崩れた時はお前にまかせたぜ」

そう言ってティニーに託すと、出入り口へ振り返りガイは去ろうとする。
その前にティニーも一つ、聞いておきたい事があった。
いや、聞いておかなければならなかった。

「あの、おじさん、どうして……お姉ちゃんには会えないんですか?」

ティニーにとっては素朴な疑問、ガイにとっては大きい質問だった。息をつき、ゆっくりと話す。

「……嬉しそうな顔が見れるのはいいが同時にあいつを“壊し”ちまうかもしれねえからだ」

手を振り、そのままガイは去って行ってしまった。

「どうして……」

ティニーには、ガイの背中に見えない大きな何かが圧し掛かっているように見えた。
その見えない何かのせいで、ティニーにはガイが悲しそうに見えた。

壊すというのはどういう事なのだろうか。
リオナ達の間で何が起こったのか。

これ以上は入り込む事が出来ない領域だと考えたティニーはこの事を忘れないように胸の奥に仕舞い込んだのだった……。





そしてティニーが観客席に戻るも、リオナとレヴィアの試合はまだまだ続いていた。
ホッとした気持ちで席をつくティニー。

「おかえりティニーくん」

リィナとエレはトイレから帰ったティニーを迎える。

「ただいま。
……お姉ちゃんの試合、どう?」

現在の状況を知るためにティニーはリィナへ尋ねる。
この質問に、リィナは少々難しい顔をする。

「……お互い互角の勝負に見えるけど、この戦い……不利ね」

何故不利なのか、ティニーは疑いの顔でリィナを見つめる。

「確かにリオナちゃんは攻め続けて闇雲に見えるけど、判断力や冷静さもあって凄いと思うの。
でも、それ以上に体力を使い過ぎてしまって、頭は冷静でも体は思い通りに動けてないみたい。
現に結構疲労しちゃってる……あの爆発魔道もあってのことなんだろうけど……。
それに比べて、相手のレヴィアって人の方は怖いくらいに冷静で、あれだけの爆発を受けたはずなのに体力がそんなに落ちてないように見えるの。無駄が無さすぎるの。
最低限の動きで体力の消耗を抑えてる……。
この勝負……負」

「そんな事ない!」

リィナが最後の言葉を紡ぐその前に、ティニーがそれを阻止する。

「それ以上はいっちゃだめだよ……本当にそんな気がしちゃうから。
どんな逆境も乗り越えてきたお姉ちゃんが負けるはずなんかない!」

ティニーの勢いのある声に、リィナは己の言っていた言葉が何だったのかに気づかされる。

「ご、ごめん……そうよね、私達、大事な仲間なのに信じてあげられないなんてどうかしてたかも……」

「……」

エレは、黙したまま何も語らない。
が、彼女の心には確実にリオナに対する応援の気持ちがあったようだった。
その証拠に、彼女の口の筋肉が横に少しだけ動いており、どこか笑顔に見えたからだ。

その様子を、遠くから見下ろすガイ。

「けっ、いいダチ公作りやがってあの野郎……坊主とお喋り女と電波女か……個性的なこった。
へへっ、俺のチームを思い出すな」

ガイは少々だがリオナに羨みを持ち、昔の事を思い出しながら笑みをこぼし、戦い続けるリオナの姿を見守るのだった。





そして肝心なリオナ達の方はというと、リィナの言っていた通りとなっており、リオナは息が荒く、体力は既に限界に達しそうである。
一方のレヴィアは最低限かつ繊細な動きのおかげで息は少ししか乱れていない。
が、リオナの剣撃も無駄では無かったのか、所々に傷を貰っていて白い服に血がくっきり滲み出ている。

「……こんなにもあなたは疲弊している筈なのに、時々虎の如く鋭い一撃を放ってくる……あなたのその粘り強さの秘訣はなんです?」

レヴィアの質問はリオナにとっては愚問でしかない物だった。

「気合と根性の違い……だろォ!?」

息を乱しながらの迷いの無い答えを放つ。
彼女に問い詰めても必ず帰ってくるであろう事は既に分かりきっている事である。

「やはり……そう答えますか」

眼鏡の位置を整え、レヴィアは溜息をつく。

「当たり前だろ!馬鹿みてえな事聞いてんじゃねえ!
全く、腹立つ野郎だぜ……俺としてはお前との戦いにとっとと決着つけて、さっき食い損ねた美味しい唐揚を頬張りてえところなんだよ!!」

ビシッ!と人差し指をレヴィアへ向け、威張りながら言い放つ。

「はぁ、仕方無いですね。
もう少し闘っていたかったのですが、確かにこれ以上は神様に申し訳が立ちませんね……。
では最後のディナーと行きましょうか!!」

レヴィアがリオナへと跳躍し一気に押し込む。
リオナも負けじと攻めるレヴィアの槍による攻撃を上手く避けながら隙あらば攻めていく。
最後のフィナーレはリオナかレヴィア、魂を掛けた激しい剣撃だった。

そして、

ガキィィィンッ!!

快音とともに武器を吹き飛ばされたのはリオナだった。
空中で何回も回転し、そして地へと刀が突き刺さる。

「減らず口もここで終局。ギブアップするなら痛い目は……っ」

刀が吹き飛ばされたにも関わらずリオナには関係のないことだった。
レヴィアが最後まで言葉を紡ぐ事が出来ない程、リオナがレヴィアの懐へと踏み込もうとしていたのだ。

「うおおおおおりゃああああああっ!!!」

まさに臨機応変、場に応じて戦う事に慣れているリオナ。
彼女にとって刀だけが武器ではない。
“どんな事にでも立ち向かう燃え滾る何か”が武器なのだ。

気合を込め、レヴィアの顔目掛けて拳を振るう。
そして腕の辺りで一瞬だけ魔道で爆発を起こす事により、爆風を推力とする。
それプラスのいつも以上の火事場力でレヴィアへと攻撃を放つ。

「うっ……!?爆発を推進力に!?くぅッ……!!」

さすがのレヴィアも対応する事が間に合わない。
持っている槍で防御を試みる以外、防御方法が彼女には見つからなかった。

バギバギィッ!!

音を立ててレヴィアの槍が変形していく。
それ程までにリオナの拳に破壊力が備わっていたのだ。
もし対応に遅れていたら……そう思うだけでゾッとするレヴィアだった。

「くそッ……足がっ……」

リオナの体力は先程の魔道を込めた拳の一撃で使い切ってしまったようだった。
足は疲労困憊で悲鳴を上げていて、リオナ自身既に構えをする力すらなく立つ事がやっとの程だった。

このチャンスを逃さまいとレヴィアはここでブツブツと何やら唱え始める。
レヴィアの頭上回りに雲が出来始め、それが凝固されはじめた。
どうやら無数の小さな氷の塊が出来上がったようだ。
日の光が反射しチカチカと光って見える。

「今の疲れ切ったあなたならこれで……!!」

右手をリオナへと差し出すと、待機していた無数の氷結晶が高速でリオナへと放たれた。

「やべぇ、避けれ……ねえ」

思ったように体が上手く動かないリオナ。
疲労も既に限界にもまで達してる事もあり、絶体絶命である。

そして……。





ザザザザザンッ!!

≪お互いギリギリの勝負でしたが!
レヴィア選手の放った攻撃にさすがにこの勝負は決まったかぁぁぁぁ!!?≫

アナウンサーの言葉通りとなってしまうのか、あえなくリオナはレヴィアの攻撃を直撃してしまい、彼女の体勢は崩れ、あえなく膝をついてしまった。

勝負がついたと悟ったのか、レヴィアは崩れるリオナへと視線をやり、

「……唐揚げなら夢の中でどうぞ召し上がりください」

レヴィアの最後の捨て台詞に決着がついた。
観客が、アナウンサーが、誰もがこの試合は終着した、そう思った。
クルりと視線をリオナから逸らし、彼女に背を見せ、去ろうとしていた。





その刹那だった……!!

「……だあああああああああ!!」

油断していたレヴィアの背後から雄たけびが聞こえた。

レヴィアの攻撃を直撃して崩れたはずのリオナが刀をいつの間にか拾い上げて、至近距離まで迫っていた。
彼女が振り向いた時には既に遅かった。

「しまっ……!」

迂闊だった。
彼女だけは別格だった。
普通のG-Aにはない、異様なまでの執着心。
レヴィアはそれを忘れていた事に後悔する。

ザンッ!!

避け損なったが直撃は避ける事が出来た様だった。
腕に傷を負い、そこから血が滲んでいるだけで済んでいる。

だがこれに、ニヤリとリオナは笑みを浮かべる。

「へへっ、どうよ……?
あのイケすかねえレヴィアさんに生唾飲ませてやったぜ……ざまあ……みろ」

最後の最後に優越感に浸る事が出来たリオナだったが、そのまま前のめりで気絶してしまった。
レフェリーのカウントにも彼女はピクリとも反応することなく、深い眠りについた如くリオナから意識が途絶えてしまった。

≪リ、リオナ選手、これ以上の戦闘は不能とみなし、決勝戦の勝者はレヴィア・レイジ選手です!!
激戦の果てに見せた彼女らの健闘に、私は拍手を送りたいと思います!!≫

ワァァァッ!!と嘗て(かつて)ない歓喜があがり、観客も総立ちで拍手した。

(油断していました……殺気を殺してでの不意打ち、見事でした。
なんとか気づく事が出来ましたがもし気づけなかったらと思うと……やはり彼女、只者ではないようですね)

早急に医務室へと運ばれるリオナに敬意を払う。
そしてそのまま闘技場を後にする。





闘技場待機室出入り口で待ち構えていた一人の男。

「……またお前が勝ったのか?
本当に、この俺に対してどれだけ恋してんだ?」

笑いながら淡々と語る黒髪で短髪の男。
どこか妖しげな雰囲気を醸し出すこの男を、レヴィアは知っている。

「“貴方達”のこれ以上の横暴は私が許しませんから」

そう、レヴィアにはこの大会での目的が二つあったのだ。

一つはリオナと一戦交える事。

そしてもう一つの目的が優勝して“これ以上の犠牲者を増やさないため”。

「イクス・リヒカイト……何故あなたは“ゾランダドス”の味方をするのです?
人としてG-Aとして、魔族に味方する事がどれ程の……」

言いかけた所でイクスという男はクスクスと笑い始めた。

「クックック、お前は何もわかっちゃあいない。
何しろ俺はもう腐れG-Aでも何でもない。
お前は知らないんだ。
この世界の事、魔族の素晴らしさというものをな」

コツコツと靴を鳴らしながらレヴィアへと歩み寄る。

「全てを語る事はお前ら低俗には勿体無い。
まあ、一つ言うなれば“力こそ正義”……支配されるというのも悪くはないぞレヴィア」

レヴィアの顔がこれまでにない険しい顔になる。

「あなたは……それで何人もの人々を殺めてきたというのですか!!
毎回の優勝者を陰で貪るあなた達の愚かな行為!!」

フッ、とイクスは嘲笑し、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、

「わからないか?
人を殺すという事がどれだけ楽しいか。
強い者なら尚更だ。
お前も強い相手、あのリオナとかいう腑抜け親父の娘だったか?
強そうだからという理由で相手にしたのだろう?
それと何ら変わらん」

「くっ……それでも、あなたのように命を無差別に奪ったりはしません!!」

怒鳴り声を上げて、イクスへと威嚇を激しくする。
彼は遂に呆れ顔になり、

「フッ、まあ昔の惜しみだ。
お前を殺した所で面白くもなんともないからな。
……だが次に同じ場面でその面を晒してみろ、今度こそお前を躊躇いなく殺してやる」

そう言って、イクスは霧のように闇の中へと消えていった……。





“彼ら”の存在を知るのは凄腕G-A、ガイやその他G-Aにとって信頼できる人間、特例としてBランクではレヴィアのみ、そしてギルドマスターのサーヴァスである。

彼らの存在は観客や王等に知られてしまえば事態は悪化してしまう恐れがある。
なぜなら、収集がつかなくなり、国民全体に影響が出かねない。
そうなれば闘技大会など等にやっていないのだ。

そして今回現れたイクスという男は先程レヴィアが言っていたゾランダドスの配下なのである。

「……嫌な予感しかしません。
この事は一刻も早くサーヴァス様へ伝えなくてはなりませんね」

独り言で考えを整理すると、急ぎ足でレヴィアはサーヴァスのいる場所へと向かうのであった。

(杞憂で終わるはずがありません……私の計算が正しければこのままでは……!)

【第3章 -武術大会試合編- 終】

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RHは現在もガンガン進行中!(?)長期休載とかなるべくしないように頑張るぜ!!

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