第6話『漢ならこの程度乗り越えて当然!』
【第3章-武術大会前編-】
今から1週間後、ブルク城にて開催されるG-A武術大会が行われるという情報をレヴィアから得たリオナ達。
彼女達自身、レヴィアの急な宣戦布告には少々驚いていたが、それ以上に目標が出来上がった事に心は躍っていた。
「武術大会か……わくわくするぜ!」
「うんっ、目標が増えるのはいい事だよ。
折角だし、レヴィアさんから貰った紙を見て武術大会の事、少しでも知っとこうよ」
ティニーの意見に賛成し、リオナは紙を広げ、記されている事を読み上げ始める。
「えっとな……。
・大会形式…トーナメント形式によって執り行うものとする。
・参加資格…ここでの参加資格という意味は、各々G-Aランクを指す。
各ランク同士の戦いとなっており、Cの者なら、Cランク同士のみ、Bランクならば同様にBランク同士のみの試合である。
以上や以下のランクの試合に臨むことはできない。
・試合時間…無制限である。
己の限界に挑戦してもらいたい。
・シングルマッチであり1対1が基本で例外はない。
・試合勝敗はどちらかのノックアウト、または場外へのリングアウト、そして両雄どちらかのギブアップで決定する。
・禁止事項は特に無い。
G-A医療チームがもしもの場合の緊急時にも万全に備えている。
・最後に、G-Aとして恥かしくない試合としてほしい。
以上だ。
……だってよ。
ランクが同じモン同士としか戦えないみたいだから実力にはさほど差が無い戦いになりそうだな」
「みたいだね。
レヴィアさんのためにも、決勝戦にいけるだけの実力を見に付けとかないと、ね」
リオナはコクリと頷くのだった。
しかし、
「とはいっても、大会の日まで近いし、こりゃあ歩きながら修行しかないか……」
約束の日までは遠くなく、リオナの言った通り、G-Aとして仕事をこなしながら鍛えていくしかないようである。
「いやしかし、それにしてもなあ」
リオナは歩きながらブツブツと、1人で呟いていた。
当然気にならないわけがないティニーは何かあったのかリオナへと聞く。
「?どうかしたの、リオナ姉ちゃん。
さっきからブツブツ言ってるみたいだけど」
リオナは顔を顰め(しかめ)たまま、うーん……と唸り、
「いや~、やっぱり今の俺には何か足りないなって思ってな」
今の悩みをティニーへと耳打ちする。
しかし彼には何の事だか今いち理解できていないようで、
「へ?忘れ物?」
話しの噛み合わない会話にリオナは首を振りながら、
「違う違う、単純に強くなるだけじゃなくてさ……なんか新しい目標が欲しいわけだ」
何を伝えたいのかまとまらないリオナの言動にティニーは何故か理解できたらしいようで、
「えっと……要するに新しい必殺技が欲しいってこと……かな?」
良き理解者となったティニーの両手を彼女が握る。
胸の引っ掛かりが取れたようで、何処か目が輝いて見えた。
「そうそうそれ!もっとすげえ技が欲しいんだ!」
「えっと、とりあえず課題はできたみたいだね。
お姉ちゃんは新必殺技、僕はひたすら体力作りと剣の修行って所かな。
大会に向けて、お互い頑張らないと!」
簡潔に纏めるティニーにリオナはうんうんと頷きながら、
「ま、そういうこったな。
つっても俺もこのまま考えてるだけじゃ思いつくわけもねえし……。
体力作りは俺もやるから安心しろ!
必殺技なんて後でも思いつくしな」
笑顔を浮かべてリオナは楽観的にそう言った。
「それでお姉ちゃん、体力作りって具体的にどうすればいいのかな?
僕いつもおじいちゃんの手伝いしかしてなかったからそういうのは分かんなくって……。
それに時間もないわけだし……」
そんなティニーの意見にも彼女は既に考えを持っていた。
その考えを誇らしげな顔でティニーへと語る。
「ティニー、俺にいい考えがある。
俺の考えた方法が上手く行けば効率の良い修行にもなるはずだ。
というわけでだ、まずは軽く次の街まで走るぞ!」
そう言って足早にリオナは街へと走り出す。
「えっ!?
あっ、ちょ、ちょっと待ってよ!」
突然のスタートダッシュで少々戸惑うティニーだったが、遅れず彼女の後ろについていくのだった。
しばらくし2人が走っているところ、草叢から伸びる長く巨大な尻尾が道側にはみ出ているのを確認出来た。
何の生物かはこの時点で特定できない。
走りながらティニーはその大きな尻尾に指を差す。
しかし彼女にはその生物が何かというのをよく知っているようだった。
それを眺めながら少々考えた後、リオナは何か思いついたか如くニヤリと笑みを浮かべた。
「ティニー、剣は一切使うなよ?
俺が使っていいというまでな」
そういい残し、ティニーをその場で待機させリオナは大きな尻尾へと1歩1歩近づく。
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん……まさか」
ティニーからは嫌な予感しかしなかった。
彼女は近づき終わり、ゆっくりと足を上げて尻尾へと照準を合わせた。
「ああ……そのまさかだ……よッ!!」
グシャッ!と、大きな尻尾をリオナは思い切り踏みつけた。
すると飛び上がるように魔物が起き上がり、
「ガアアアアアッ!!」
踏まれた尻尾の恨みを晴らすためにリオナに狙いを定め突進を開始した。
彼女はあっさりと魔物のこの攻撃を回避し、本来ならそのまま敵を倒すかのように思えた。
が、リオナはクルリとティニーのいる方へ方向転換し、突然退却を始めた。
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!」
リオナが魔物を引きつれ、ティニーもとばっちりで逃げる形にいつの間にかなっていたのだった。
「ティニー、約束は守れよ!
この魔物は結構足の速いヤツだからな!
あとはわかんだろ!!」
「り、利用するってこと!?」
「そういうこった!!
さあ走るぜーーっ!!」
「そんな無茶苦茶な~~!!」
このまま2人は、己の武器を使わず、食い殺されないように全速力でひたすら次の町まで逃げ続けるのであった。
そしておよそ30分が経過した。
次の町が目の前に顔を出し始める。
2人は1匹の魔物から一生懸命逃げ続けていたため、ティニーの顔は既に限界寸前といった感じであった。
リオナには人並み以上の体力はあったが、さすがに顔に若干疲れが出始めていた。
「よっしティニー、今こそ剣を使って倒すんだ!
この状態で魔物をぶっ倒してみるんだ!」
ここで、リオナの抜刀の許しがようやく下された。
「わかったよ!!」
コクリと頷き、剣を取り出し魔物の方へ振り向き呼吸を整える。
ティニーは剣を振りかざし、そして渾身の縦一閃を放った。
「てやあああ!!」
ガキィィンッ!
しかしその攻撃も虚しいものに終わる。
ティニーの剣による一撃もすんなりと受け止められてしまった。
「グルルル……」
「うッ……力が」
疲れきった状態が原因で彼の攻撃はたかが知れていたようだ。
魔物にとって今のティニーの攻撃を受け止めるには容易だった。
「スコしでもカナウとオモったか、ニンゲン!!ガアアア!!」
魔物は憎しみの篭った雄叫びを上げて、剣を受け止めていた腕をそのまま振り上げると、ティニーごと天空へと吹き飛ばす。
「うあああ!!」
吹き飛ばされたティニーはそのまま地面へと落下し、地に叩き付けられてしまった。
「ザコにヨウはナい。
オンナァ、キサマはありったけクルしめて、そしてそのヤワらかいニクをもてアソんでからクってやるぞ……!
シッポをフんだレイがしたいんでなァ!!」
魔物はティニーから目を背け、リオナを眼前に睨め付け舌を出しジュルリと唾の音を出す。
だが、リオナの顔は得意の不敵の笑みのままだった。
「お前、背中向けるたぁ良い度胸してんのか馬鹿なんだかな……まぁ多分馬鹿の類だろうな」
魔物にとってはリオナの言葉の方が愚かな言葉として聞こえていた。
現に正面を向いてるじゃないか、背中を向けているはずがないと思いながら、魔物は彼女をこけにするかのように笑う。
「クックック、ナニほざいてッ……」
ザンッ!
話しの途中、背後からティニーの渾身の一撃でモンスターは丁度縦半分に斬られ、そのまま声をあげることなく突っ伏すように倒れた。
「はぁ……はあ……」
呼吸は荒いままだったが、敵が隙を見せてくれたおかげで少しだけ体力を回復する事が出来ていた。
そのおかげもあり、最初の一撃よりも力強い攻撃となったようだった。
「よくやったじゃねぇかティニー!
今回は運がよかったが多分2度目はないだろう。
次の相手がこいつみたいに馬鹿って保証がねえからな……」
笑いながらリオナがティニーの頭を撫でた。
ティニーも微笑みを浮かべながら、
「あはは……僕も油断しないようにしないとね」
頭を掻きながら、同じ馬鹿にならないためにも、リオナの言葉を忠告の言葉としてティニーは受け取ることにした。
魔物も倒したという事でようやく2人は町の門に近づく。
その町の門の前にある看板にティニーが近寄り読み上げる。
「えっと……“ようこそ、ペタ町へ!”……かあ」
「なんともペタペタとした名前だがとりあえずティニー!
早速だが“防具屋”探すぜ!」
そういって、リオナはツカツカと町の中へと入っていく。
その後ろからしっかりとティニーは後を追う。
「防具屋?……?
探せばいいんだね」
ティニーには防具屋が何の意味を示しているのか理解できていなかった。
言われたままに防具屋の捜索に専念する。
暫く町の中を歩きまわると遂に2人は武具店らしき店を発見する。
「ここだな……よっし」
そのまま2人は武具店の扉を開け、中にいた店主に近づいていく。
「らっしゃい!
……お?これは珍しいな、1人は女に、もう1人が男の子か。
見たところG-Aのようだな。
ここには一杯防具が揃ってるから身を守る用意は万全にしとけよ。
こういうサポーター等、買っといて損は……」
商品の紹介をしている店主の話しが終わるその前に、リオナは店内を見渡しながら、
「なぁ、鋼の鎧みたいな重いやつってあるか?
俺と、コイツ用でも着れるヤツとかさ」
リオナの突拍子のない言葉に、店主の顔が少々疑問の顔に変わる。
「いやっ、あるっちゃああるが……。
鋼の重さを知ってるか?
鋼ってのはなぁ……」
その店主の説明すら聞く耳を持つつもりは無いようで、
「いいからいいから!」
店主は彼女の急かしに頭を抱える。
とはいえ彼自身、客の信用を裏切るわけにもいかず、少々呆れ顔で、
「……動けなくなってもしらんぞ?」
という忠告をするなり、店内の防具の中から、旧世代にある全身を覆う甲冑のような装備ではなく、守るべきところだけを守るサポーターのようだった。
それらの鋼の装備をティニーとリオナ、2人に見合ったサイズを探し出し、2人の目の前に置いて見せた。
「一応、頭と腕と脚のパーツ、一式分揃ってるが」
店主の言葉に、リオナは少しだけ考えたが直ぐに答える。
「頭の奴はいらねえや。
頭が暑苦しくなるから無しで頼む」
「そこは止めやしねえが……本当にいいんだな?」
最後の忠告として彼女に尋ねたが、リオナはお構いなしといった感じにクスッと微笑む。
「フッ、大丈夫だ。
漢ならこの程度乗り越えて当然!」
「えっと……まずツッコミを入れさせてもらうなら、あんた女だよな……胸あるし」
自信ありげに言っているリオナへと、店主が彼女の胸を見ながら切り返す。
その視線の先を同じく見て、彼女は、
「た、確かにそことかは女だけど……漢なんだよ!」
さりげない感じに胸を隠すように腕を組んで、そう言い聞かせた。
そのリオナの愉快な性格に、店主も思わず笑いがこみ上げてきた。
「あんた、おもしろいやつだな……。
よっしゃ!あんたのその熱い気持ちに免じて、今回は安く売ってやろう!」
店主は気前を聞かせた一言をリオナへと贈る。
「お、ホントか!?」
そう聞くと、彼は勿論だと言わんばかりに力強く頷く。
「おうよ!それにあんたはなんだかんだ言ってもやっぱりレディーだからな。
そうだな、2人分1500クォーのところを800クォーで売ってやろう!」
因みに、彼の言う“クォー”とは、この世界でいう“お金の単位”のことである。
食堂で使うクォーの金額はというとちなみに120から300クォー程度であり、この鎧の値段は実に安いほうである。
ちなみにリオナの財布の中はというと2200クォーであり、今回の装備を買うには十分、こと足りる金額である。
「よし、買おう!」
リオナの迷いの無い言葉で、商談は成立した。
「毎度!
んじゃあ、さっそく着てみてくれ。
おーい、ラジリー!
こっち来てお客さんを手伝ってやってくれ!」
その声と共に奥から出てきたのはなんとも美しい女性だった。
左手の薬指に結婚指輪をしており、どうやら店主の妻ようである。
「まあ、お客様なのね、あなた」
随分とのんびりした口調でラジリーが言った。
「うむ、そうだ。
んでラジリー、この女性の分のパーツ装着を手伝ってやってくれ。
俺がやるとセクハラになるだろう?」
鼻の頭を掻きながら店主がそういうと、妻は、理解したようで、
「わかったわ。
それじゃあ、えっと……こちらへどうぞ」
ラジリーはリオナを試着室へと手招きし、連れて行った。
「よっしゃ坊主!
お前はこっちだ!」
「うわあ!」
そう言って、店主はティニーを男性用の試着室へと誘い、鋼の装着が始まった。
2人の鋼の装着が終了したようで、試着室のカーテンがようやく開く。
それに伴い、リオナとティニーが奥から登場した。
所々サポーターのように装着されたパーツが要所要所で重みとなりその分筋肉に重力が加わる。
「フム、なかなか似合ってるぞ、2人とも」
店主が笑いながらそう言った。
ぺたぺたと自分の身に装着された鋼の部分をリオナは触りながら、
「そうそう、こんな感じだぜ」
「所々重いけど……確かにこれなら防御力もあっていいかも」
と、その重さと堅さに2人は納得していたようだった。
店主は鼻を掻きながら、
「こんなご時世だから、道中気をつけてな。
そいつらは結構堅いし、サビにくい。
手入れもそんなに要らないから安心していいぞ」
そんなリオナ達へ励ましの言葉を贈ると、彼女は微笑んで返す。
「おうよ、縁があったらまた会おうぜ!」
リオナはバサッと、マントを鎧の上から羽織り、そのまま店主やその妻に手を振りながら、2人はその武具屋を後にしたのだった。
「なんだか、歩いてるうちに違和感のある重みに変わって来たような……。
確かに防御力はありそうだけど」
パーツとはいえ、鋼で出来ているため、動き辛そうにするティニー。
「あはは、我慢だ。
いいか相棒?こいつの重みを修行のために逆に利用してみたらどうだ?
もしこの重い装備で、軽い時の軽快な動きができたなら……?」
微笑みを浮かばせながら、その成り行きをティニーへと予想させる。
成る程と、納得した表情になったようで、
「うん、これなら確かに早い段階で修行の成果が期待できるかも」
「風呂に入るとき、寝るとき意外は着けたままだ。
さすがに寝てるときとか着けてたら邪魔くせえからな……」
リオナは頭を掻きながら話した。
ふふふ、とティニーが笑みを零す。
と、ここで周りを見てみれば既に夕焼けの時刻となっているようで、沈みかけの太陽が綺麗に赤く光っていた。
「今日はこんくらいにしとくか。
明日からはもっと本格的に行くからな、今日はたっぷり休もう。
ちなみに宿については実はさっき武具店を探してた時ついでに、良さ気な店見つけてあっからそこ行こうぜ、ティニー!」
グッと親指を突き立てて、夕日を背に自信ありげに語る。
ティニーも微笑みを浮かべながら、
「本当?
さすがお姉ちゃん、そこの所もちゃっかりしてるんだから!」
ティニーはそんな用意周到なリオナを誉める。
彼女は照れながら、先程見つけた宿を目指し歩き出すのだった。
壮絶に繰り広げられると予想される大会の予感を前に、リオナ達へ残された時間はあと6日である。
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- 2008-07-21
- 【RH】武術大会前編
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