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Red Hearts 20話

第20話『覚悟してもらうぜ』

エレとの戦いで体力を消耗し、見舞い後に倒れてしまったリオナ。
意識が遠のき、一人夢現の世界を彷徨っていた。

(あれから……あれから?何が言いたいのか忘れた……それよりここ何処だ?暗いな)

(なんか灯りとか明かりとかねえのか……)

そう思っていると、序々に暗闇が晴れていく。
灯りを探す必要はなく、リオナの目の前に、懐かしい過去の光景が次第に蘇ってきた。

(なんだこれ……はっきりしないな……これは小さい頃の俺か?)

誰かが朝か昼か夕かわからないが何やら料理をしていて、それを隣で手伝う幼い自分、だろうか。
それは確かにリオナだった。幼い頃の自分の姿は、何だか微笑ましいものがある。

そして、その隣で料理を作っている人……。

(母さん……?だよな)

包丁でトントンと、優しい音を立て、野菜や果物などを切っていた。
後ろ姿だったが、見ただけでわかった。その姿を見た瞬間にリオナは涙が出そうになった。が、なんとかこらえた……

つもりだったが少し出てしまった。

『今日のご飯なに~?』

幼いリオナが無邪気に自分の母親に、料理について問いかけていた。優しい声で返答する母親らしき人。

『今日はね……』





ブツンッ――、といきなり映像が消え、肝心な所が聞けぬまま次の場面へと移る。

(ご飯……なんだったっけ?それよりも次はなんなんだ?)





そして、次に見えてきた場面は、大量に血を流して人が横たわっている姿だった。

(……どっかで……?)

リオナには見覚えがあった。
街の人と思われる人々が、倒れていたのだ。

べっとりと血が塗りたくられている壁。地面。
やはりはっきりしないが、うっすらと冷や汗が出てくるのを感じた。

そしてリオナは大体分かってきた。

ここは夢なんだと。

夢だと分かったのならこんな気持ち悪い所は早く抜け出そう―。





しかしそう思ってもなかなか出ることができない。

(な、なんだ……これ……)

次々と映る残酷な映像。序々に激しさを増していった。

そして目の前には、屋根で下敷きになっている女性の姿がそこにあった。頭からも血を流していたが、なんとか生きている。精一杯の力で唇を動かし、こちらへ何かを喋っている。

『……愛して……なさい』

全然聞き取る事ができない。心の蟠り(わだかまり)が大きいものへと成っていく。

(駄目だ、何なんだ……?何がどうなってるんだ、くそっ……誰か俺を起こしてくれ……誰か!!)





「お姉ちゃん!!?起きて!」

ティニーの呼び声で突如現実世界に戻されるリオナ。
息を荒くし、ベッドから飛び出すように起きた。

「……ティニー」

寝汗なのか、着ていた服がびっしょりと濡れていた。
そして、何やら体が硬いな、と思って下を見てみれば、包帯が巻かれている。
そのおかげか、動ける程度に傷の痛みは引いていた。

目をこすりながら窓を見て、リオナは時間を確かめようとした。
優しい光が目に入ると、慣れない眩しさにリオナは顔を隠してしまう。

「朝……?俺……寝てたのか」

「お姉ちゃんがいきなり倒れたからびっくりしたよ。応急措置、まだだったんだね。僕心配しちゃったよ」

ハンカチを取り出しながら、ティニーがリオナの容態に気遣う。

「……凄く魘され(うなされ)てたみたいだけど……涙、出てるよ、大丈夫?」

「な、なんでもねえよ!!……ありがとよ」

ハンカチのお礼はしても、恥ずかくなって慌てて顔を背けた。
しかし、妙に現実味を帯びた夢だったために、少しくらいは話そうか、などと思い、それからは自然と言葉が紡がれた。

「……懐かしい夢を見たんだ」

「え?」

興味を持ったティニーを見て、先程までの考えをリオナは打ち消した。
やはり深くは語る気にはなれなかったので、誤魔化すタイミングを計って呟く。

「後は……ごめんな、忘れちまった」

リオナは、頭を掻き無理やり笑みを作った。
荒っぽかったが、これがティニーにとっての”強いリオナ”でいるための、今の彼女に出来る最善の策に思えたからだ。

「……そっか」

ティニーもそれに精一杯の優しい笑顔で返してくれた。
もしかしたら気づいていたのかもしれない。
だがティニーは、それでもあえて言わないだけの分別はある男だった。





「ところで……エレは今大丈夫なのか?」

リオナは出来るだけ自然に、自分の夢のことから話を切り替えた。

「うん、大丈夫」

ティニーは頷きながら答える。そして何かを気にするように若干口ごもった後、続けた。
夢のことを追求されはしないかと一瞬どきりとしたリオナだったが、その心配は無用だったようだ。

「エレさんの受け売りだけど、読心術をしている間は、相当精神に負担をかけるんだって。
それでちょうど、お姉ちゃんが倒れ掛かったときに気が抜けてしまったみたい。
やったことのないぼくにはこんな説明しか出来ないけど、精神的な限界が来たってことかな?」

ティニーはリオナにそう説明した。
ふと、ここでリオナに簡単な疑問が浮かび上がる。

「ちょっとまて、”している間”ってことは、”してない時”もあるのか?」

この問いに、ティニーは首を横に振り答える。

「というより、”抑えてる”みたいなんだ。いつでも聞こえてるらしいけど、コントロールして抑える事はできるみたい。
どうやってるのかはやっぱりよくわかんないんだけど、それで普段は疲労にならないように抑制してるみたい。
戦う時とか、そういう重要な場面でだけ思い切り開放して、相手の行動を読み取ったりしてるらしいよ」

抑制ができる読心術、というかそんな力だったとは。
何もかも初めて聞くことだが、そういうものだというのなら仕方がないのかも知れない。
そう考え、リオナはとりあえずは納得する事にした。

「ところで、お姉ちゃん。今日の決勝戦、やっぱり相手はレヴィアさんみたいだよ。自信……というかケガ大丈夫?」

愚問。真っ先に頭に浮かんだ言葉と共に、リオナの表情に闘志が戻った。
今更こんなところで怖気づいてしまうリオナではない……。

「あったぼうよ!!俺様があんなナヨっちい奴に何があろうと、負けるわけはないぜ!!」

周りに迷惑にならない程度だが、声を張り上げてそう言ってみせた。
元気よくベッドの上で立ち上がり、自信たっぷりに親指を突き立ててティニーに見せつけた。

ティニーは、そんなリオナがまた普通に見れることが嬉しかったみたいだ。
いつも強気だからこそ、根拠のない自信があふれ出てくるのか。
そうであっても、ティニーが安心するには十分なリオナの反応だった。

「……うん!頑張ってお姉ちゃん!絶対勝てるって信じて応援してるからね!」

「……決勝戦、か。あのギザな野郎に一発かましてやんねえとな、楽しみんなってきやがったぜ!」

パンパンッ!と、両拳を合わせ、威勢を張るリオナ。
決勝戦のやる気も十分。この様子を見れば、先程まで沈んでいたとは誰も思わないだろう。





トントン。リオナの部屋に聞きなれたノックの音が聞こえた。
泣いても笑っても、これが最後のコールだ。
何度か見た大会運営の関係者の男が、ノックの後部屋に入ってくる。

「リオナ選手、もう大丈夫ですか?」

「おうとも、いつでもいいぜ」

ベッドから飛び降りながら、リオナは応えた。
怪我を心配していた男も、その様子を見てとりあえず棄権の可能性を否定したようだった。

「そうですか。では、これから決勝戦が始ります。控え室へ、準備が整い次第おいでください。ではご健闘を祈ります」

そういうと、極めて事務的に頭を下げて男は立ち去っていった。
リオナも、いつもの大きいコートを豪快に羽織って、ティニーに背中を向けた。

「んじゃ、あの高飛車に一発かましてくるぜ」

ティニーの反応を待たずに、リオナは扉を開け放った。

部屋を出ると、廊下は整然としており、ほとんどの出場者が控え室を後にしたことを証明していた。
何せ決勝戦なのだ。どこにレヴィアの控え室があるのだろうか、とかいうどうでもいい疑問は打ち消しながら、リオナは念じる。

(夢のことなんて気にすんな、リオナ!……俺が信じた俺を貫くしかねえんだ)





「……」

「大丈夫かな……」

リオナが向かった決戦場の反対側の通路に待機していたエレとリィナ。
なぜならリオナの迷いのような思念は、この二人の気配に気づけなかった程だったからだ。
通り過ぎていったリオナを見届けて、より一層二人は彼女を心配してしまった。
それでも彼女のチームメイトである以上、何よりも友達である以上、彼女を信じて応援するしかないのだ。





会場はすでに満員だった。
こんなイベントであってもそうそう限り集まりうるはずのない人数に、G-Aの知名度の高さを垣間見ることが出来る。

≪皆様、大変お待たせしましたぁ!!これまで数多の白熱する戦いを見せてきた両雄が、ついに激突する日がやってきました!!≫

音もなく、そして華麗に。
アナウンサーの響き渡る声とほぼ同時。
まるで打ち合わせでもしていたかのようなタイミングで、青コーナーから登場してきたのは……。

≪まずは青コーナー!!その白き衣装、荒ぶる水の力、そして何よりもチャームポイントはその光眼鏡でしょう!!!
彼女には敗北の二文字は最早似合わない!そして今回もチャンピオンへと輝くのかぁぁぁ!!?レヴィア・レイジ選手ゥゥゥ!≫

≪そして、赤コーナー!!≫

アナウンサーがビシッと腕を赤コーナーへ向けた瞬間。
割れんばかりの歓声が、その扉から出てくる人物を待ち望んで響き渡った。

「いい、テンションだ……最高じゃねえか!!とうッ!!」

その掛け声は歓声に飲み込まれたが、代わりに爆発しそうなほどの歓声を一身に浴びて赤の扉が開いた!!
その者は、飛び上がって宙で一回転し、スタッという着地音を立て、得意の口上をレヴィアへ叩きつける。

「燃える太陽胸に宿して、冷えて乾いた輩は俺の炎で焼き尽くす!」

胸の紋章が光ると、足元に炎が円を書いて一瞬だけ爆発が起こり、その一瞬の爆風でリオナのコートは大きく揺らめく。
燃えた地面は綺麗な円を書いた状態で灰になっている。

「リオナ・レッドハートここに参上……!!言われっぱなしは俺のポリシーに反する!覚悟してもらうぜ、レヴィア!!」

リオナの中では自信満々、ニヤリと不敵な微笑みで、今回の口上は決まった。
会場のアナウンサー含め、全ての観客は突然のリオナの切り出しを理解するのに数秒を要した。
謎の静止の後、最初の勢いをはるかに上回る歓声が会場とその一帯を包み込んだ。

レヴィアは呆れ顔だったが、まさか本当に決勝戦へと上がって来るとはと、リオナを見直しながら静かに言い放った。

「いつでも始めてください」

そういい終わるより前に、すでにレヴィアは臨戦態勢に入っていた。
並々ならぬ雰囲気に生唾を飲み込みながら、レフェリーは勢いよく開始の合図のゴングを打ち鳴らした。

≪試合開始ーーッッ!!≫

偶然だったのか、はたまた遠く決定された運命だったのか。
二人の戦いが、ついに火蓋を切って落とされたのだった。

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