第5話『敵は1人ではありませんよ?』
「リオナ・レッドハート!
悪を許さぬ正義の雷!ここに見参!」
刀の矛先をセルペントへと向けて、名乗り上げたリオナ。
「さあいくぜ、不細工な蛇女!
俺達がお前に、今すぐ引導を渡してやる!!」
そういえばと、リオナの口上を聞いていた女は1つ思い出した事があった。
(リオナ・レッドハート……やはり間違いなかったですね。
この破天荒ぶり、そしてレッドハートの名……。
あの人の言っていた通りですね)
ブツブツと彼女は独り言を呟いていた。
そうこうしている間に、
「不細工ですって……!?
あたいに言ったのかい!?
……生意気な、さっきからあたいの攻撃をうけてボロクソだったあんたが……。
あんたが今更になって大口なんてたたくのかい?
更にムカつくんだよォ!!」
といいながら、セルペントが気張った。
斬られた腕と舌がバキバキバキィ!という音を立てて、元通りに再生した。
「甘いな……俺がただそんだけで終わるクチだと思ってんのか?」
リオナがニヤッと笑い、余裕ぶってそう言うが、その隣から女は反論を加える。
「あなたは何を考えてるのですか!?
あなたの今の実力だけでセルペントに勝てる可能性は……」
そういいかけたところで、リオナは女にすら威嚇するように、
「うるせえなぁ、可能性なんてただの目安なんだよ!
すっこんでろってんだ!」
と怒鳴り散らして、ズカズカとセルペントへと突っ込んでいった。
「くっ、させないよ!」
シュンッ!と、伸縮自在の両腕をリオナへと仕掛けた。
「馬鹿、俺が只単に喰らってただけだと思うなよ!」
そしてその言葉どおり、リオナはセルペントの攻撃を華麗に受け流しながら突き進む。
「まさか……彼女の身体能力では、あの攻撃を避けることは出来なかったはずでは……。
何にせよ……リオナさん、援護します!」
女は正直驚いていたが臨機応変にと、
スピアを取り出して構え、リオナのもとへと走る。
「けっ、怖くなったら逃げてもいいんだぜ、女ぁ!」
リオナがセルペントの攻撃を避けながらいうと、女は呆れ顔になりながら、
「あなたも女でしょうに……それに、私は女という名前ではありませんよ。
私の名は“レヴィア・レイジ”です。
レヴィアで結構ですよ。
2人で力をあわせれば……あなたみたいな人とは合わせたくは無いのですが……セルペントを倒せるはずです。
勝率も少しは上がるかと」
淡々とレヴィアと名乗った女が眼鏡の位置を調整しながらそう語ると、リオナは、嫌々な顔をしながらも、
「しかたねえなぁ……俺もお前みたいな奴とはあんま組みたくはねえんだが……。
まぁ、今回だけだ、頼むぜ!」
2人の作戦会議の長々と聞いていたセルペントは、イライラと怒りを燃やしながら、
「ちっ、ウザいんだよ!
小娘どもがあああああ!!」
咆哮をあげながら、セルペントは体の至る場所から大量の針を射出する。
「大丈夫です。
この程度なら“アクアバリア”で弾き返せます!」
レヴィアは、左手の紋章を光らせ、左手のひらの上に、水を溜める。
そのまま地へと掌を叩きつけ、水で出来た衝撃波を作り出す。
多数の針から自分と、そしてリオナを守った。
「へぇ、そういう使い方もできるのか、すっげえな」
針を弾き飛ばしたその後ろからリオナは成る程と頷き関心をもっていた。
「しかし、これだけ針を的確に射出されては、飛び込みにくいですね。
闇雲に戦うだけでは……」
出てくる作戦をレヴィアは1つ1つ整理し、分析しながらセルペントを解析していく。
しかしそんなレヴィアにもお構いなしに、リオナは不敵な笑みで、
「フフフフ……甘い、甘いぞレヴィア君」
茶化すようにレヴィアへと己の考えの甘さを指摘する。
そんなリオナの考えが気になったのか、
「……あなたは何か策があるんですか?
闇雲に攻めるだけでは駄目なんですよ?
セルペントを倒すには、針を避け、伸縮自在の腕をかわし、弱点であるあそこの……両胸の中心部で光る玉を破壊しなければならないんですよ。
どんな隠し技を持ってるかもわかりませんからね……倒すには情報が少なすぎます!」
レヴィアは自分の考えの内をリオナへと伝えるが、それでもリオナの表情は自信に満ち溢れたままだった。
「でも可能性は0じゃねえんだろ?
まかせとけ、こういうシチュエーションは大好きなんだよ!
それから勿論、レヴィアにも付き合ってもらうからな」
「それでは聞きましょうか。
あなたに秘策があるのなら……」
フッ、とリオナは鼻で笑い、暫くの静寂が走る。
そして、彼女から出てきた答えが、
「俺が突っ込んで、お前が援護する!
それでいいだろ!」
非常に簡単な作戦内容に、レヴィアは開いた口が塞がらない気持ちで一杯になった。
それよりも、リオナの単純な作戦内容で、いいはずがないと考えたレヴィアは、
「それではあなたが今度は針まみれになると言っているんですよ!
命が……命が惜しくないんですか」
「命…ねぇ。
そんな事ぐだぐだ言ってる間に、俺達二人がティニーみたいになっちまったらどうしようもねえだろ?
そうなっちまったら、ティニーも、依頼主だって、あの子だって助けられねえ、そんなんじゃ駄目なんだよ!
どちらかが犠牲になって、どちらかが止めを刺す。
……これほど簡単で、分かりやすい作戦はどこにもねえ!
わかったら行くぞ!」
説明が終わると、リオナは即座にセルペントへと突撃を開始する。
セルペントはそれに合わせてリオナへと迎撃する。
が、彼女はそれを上手く避け、受け流し、前へと徐々に進んでいく。
「くっ、やるしかありませんね……援護させてもらいます!」
空気中の水蒸気で作り出す衝撃波を広げるように飛ばすと、レヴィアにも襲いかかってきていた針の群れを一気に弾き飛ばす。
その勢いで、リオナのサポートへと移る。
「小賢しいよっ!あんたたち!!」
セルペントはそう言って、怒涛の攻撃を彼女達へと仕掛ける。
先程までの実力とは打って変わってしまっている2人の力に、イラ立ちすら覚えていた。
「おらおら、攻撃にキレがなくなってきてるぜ!?
そろそろこっちからも一気に詰めさせてもらうぜ!!」
一気にケリをつけるべく、セルペントの懐へと飛び込むリオナ。
襲い掛かる針や伸びる腕は、レヴィアのサポートもあって、ほぼ無力化していた。
「いい仕事だぜ、レヴィア……だっけか。
うかうかしてらんねえ!!
燃え盛れ、俺の炎!」
胸元の紋章が赤く光り輝くと、炎が刀に覆われた。
その刀に纏わりついた炎を振り払うか如く、
「喰らえっ!」
空気を切り裂くように横一閃に振るう事により、放たれた刀の衝撃波に炎が覆うようになった。
その放たれた炎の衝撃波は周りの空気を燃やしながらセルペントへと一直線に飛ぶ。
「なかなかやるようだね……だが甘いよっ!!」
見え見えの攻撃だったため、セルペントにとってはとるに足らない攻撃。
弾き返してやろうと思い、再生しきった腕で振り払おうとしたその時、既にその腕が凍り付いていて身動きがとれなくなっていた。
「……敵は1人ではありませんよ?
状況を把握する事が最も大切だという事……。
残念ですが、あなたの腕を氷漬けにさせてもらいました。
……そのまま終わりですよ」
いつの間にかレヴィアによって腕を凍らされていたという事実を彼女自身から気づかされた時、それはもう既に遅かった。
その刀の衝撃波は凍りついた腕ごと見事に切断し、さらにリオナはセルペントの両胸の中心にある玉へと今まさに攻撃しようとしていた直後だった。
「余所見は禁物だぜぇ!」
ザンッ!と軽快な音を立て、セルペントの玉へと見事突き刺し、抜き去った。
すると、セルペントの体内から突如、光が漏れ始め、
「あ、ああああこんなやつらにいいい!!」
後悔の断末魔をあげ、そのまま肉体は玉を中心に爆発し、セルペントは下半身だけを残してその場で絶命したのだった。
「倒せましたね……」
正直な所、レヴィアは討伐できてしまったことに驚いていた。
喜びの表情に変わっていくリオナを見ながら、レヴィアも少しだけ微笑みの表情に変わった気がした。
「っしゃーーっ!
じゃあ、こいつの尻尾を切り取って持って帰れば……薬草の代わりにワクチ……ン……が……あれ?」
喜びの声を上げていたと思っていたその拍子に、バタッと、リオナはその場で力無く倒れてしまった。
それは声を出す事も叶わない程に痺れていた。
いつの間にか棘がリオナの足へと刺さっていたようだった。
レヴィアがリオナの元へ駆けつけるなり、刺さった棘を見ながらレヴィアは、ふっと笑いながら、
「あなたは本当の馬鹿のようですね……これ、Cランクの仕事なんですよ?
まさかこのままBランクの仕事としてこなしてしまうとは。
……というより、もともとそういうつもりだったのでしょうね。
とりあえず今回は、あなたに救われたということでしょうか。
……わかりました、今日は面白いのが見れた御礼として、あなたとそこの少年と、そしてシッポは私が運びましょうか。
もちろん、全てあなたたちの手柄で結構です。
私は何もしておりませんからね。
ギルドの役員にもそう報告しておきましょう」
レヴィアがそう伝えると、リオナは微笑みの表情だけ見せた。
そのまま毒が回ってしまったのか、死んだようにガクッと、気を失ってしまったのだった。
――そして、
「ん……っ」
リオナが目を覚ますと、そこはリザの村にある病院のベッドだった。
首をあちこち動かしてキョロキョロさせたり、手足の指を動かしたりして、リオナは体が動くと確信すると、
「よっと」
そういって、ベッドから立ち上がる。
そしてその隣にあるベッドを見てみると、そこで寝ていたティニーも起きていたようだった。
「あ、お姉ちゃん!
気がついたんだね」
と、微笑みを浮かばせてティニーは言った。
その言葉に、リオナは、
「ようティニー、お前も気がついてたか。
よかったぜ」
喜びの表情で再会を分かち合った。
「あの……お姉ちゃん、今回も……その、役に立てなくてごめんなさい」
憂いの表情で俯きながらいうと、リオナは笑いながら答える。
「いいんだよ、役に立てなかったくらいでヘコたれんじゃねえって!
お前も俺も、まだまだ強くなれるんだ、頑張ろうぜ相棒!」
ゆっくりとだが、頷くティニー。
リオナはまだ落ち込んでいるティニーの頭をポンポンと3回軽く叩いてみせた。
わっわっと唸るティニーを悪戯で遊ぶように、リオナがやっているうちに、医者の人がツカツカと部屋の中に入ってくる。
「……っと、リオナさん、ティニーさん、でしたね。
目を覚ましたということは、体の方は?」
その質問に対してのリオナの応答は、
「おうとも、バッチリだ!」
リオナは腕を振り回して見せて、大丈夫であることを示した。
ティニーの場合は、軽く手を振って見せただけだった。
「よかったですね。
あとそれから、レヴィアというお方から頼まれまして、蛇のワクチンは、私が採取しておきました。
あなたたちの分、このとおり少量ですが瓶の中へと詰めておきましたよ。
これをあなたたちに渡してくださいとのことで」
そういって、ワクチンの入ったビンを医者はリオナへと渡す。
まじまじと見つめるリオナに対し、そのまま医者は説明を続ける。
「これは接種するタイプではなく、飲むタイプですから、小さなおちょこ一杯分程度で効果が発揮されます。
事情は先程申した通り、知っています。
あの子に飲ませてあげてください。
では、リオナさん、ティニーさん、体はもう大丈夫のようですし、一刻も早くあの子のもとへ向かってあげてくれませんか」
その医者の言葉に、リオナは、
「おう、有難うおっさん!
ティニー、急ごうぜ!」
そう礼を言って、巻かれていた包帯の上からバサッとコートを羽織り、そして病院を後にしたのだった。
2人は依頼主の下へ到着し、急いでその女の子の部屋へと駆けつける。
そして、リオナはゆっくりとドアをあけた。
入ってきたリオナとティニーを、座っている依頼主は見上げ、
「あ、あなたたちは……薬草をもってきてくださったのですか?」
依頼主は喜びの表情でそう聞いてみたが、リオナは首を横に振った。
「……そう……」
意気消沈し、気を落とす依頼主。
ここで、リオナはフッと鼻で笑い、
「フフフ、何勘違いしてんだ?
薬草じゃないんだぜ?
ワクチンの方を持ってきてやったぜ!」
自慢気にそう言って、持っていたビンを依頼主へ見せ付けた。
これには完全に依頼主は唖然としてしまった。
「こいつを飲ませれば、この子も治る!
さ、あんたが飲ませてやってくれよ」
リオナが依頼主へビンを差し渡すと、依頼主はビンを受け取るなり瓶の蓋を開け、そしてその女の子の口元へ瓶を近づける。
少しずつ中の液体を垂らすと、コクッコクッと微かにだが女の子の喉が小さく鳴った。
すると、虚ろだった瞳が段々元に戻っていき、体の痺れも治まっていく。
そしてその女の子はワクチンの効き目が出始めたのだろうか、深い眠りについたのだった。
「これで大丈夫だな。
明日には目覚めると思う。
いや、良かった良かった」
リオナがビシッと親指を突き立て、ティニーは笑顔で見ている。
そんな2人に依頼主は頭を下げながら、
「本当に、本当にありがとうございました……なんてお礼を言ったらよいか……」
依頼主の表情は喜びの表情とをしながらお礼をリオナ達へ言った。
「よ、よせよ、照れるじゃねえかあ……へへ、じゃあ俺達は帰るぜ。
娘さんを大事にしてくれよ」
「さようなら、大事にしてください!」
ティニーとリオナは微笑みを浮かべながら、そのまま見送られるままに、依頼主の家を後にしたのだった。
玄関をでると、目の前には1人の女性、レヴィアが立っていた。
「確かに、あなたたちは馬鹿のようですが、成る程」
レヴィアが微笑みを浮かばせ、2人にそう言った。
ティニーの方は、レヴィアに対し面識はないため、
「えっと……お姉ちゃん、この方は?」
リオナへと質問してみた。
が、当の本人の反応は、
「えへへ~!どなたでしたっけ~?あたし忘れちゃった~!」
リオナが茶化しつつ、首を傾げながら冗談を言う。
するとレヴィアは怒鳴りながら顔を大きくし、
「何故もう忘れてるんですか!?
レヴィアです!レ・ヴィ・ア!!
……全く、前言撤回です、失礼にも程があります!」
顔を膨らませていうと、リオナとティニーはそれに対し笑う。
「冗談だよ冗談。
そんで、何しにきたんだ?
仲間になりにきたのか?」
リオナがそう聞くと、レヴィアは眼鏡の位置を調整しながら、
「そうではありませんよ。
私にもやるべきことはありますから。
それに、あなたたちと付き合っていれば、私まで巻き添えで死にかねません。
あなた達の考えには、理解しかねませんから。
そういう“意地”とか“根性”等に縛られていれば、いずれ……自分の首をも絞めることになります」
レヴィアが腕を組んでそう忠告するが、リオナは、
「警告ありがとよ。
でも……俺達はそれでも前に進んでいかなきゃなんねえんだ。
魔物共は全部蹴散らして、そんでもってみんなが笑って暮らせるようにさ。
“後戻り”とか、そういう面倒な言葉は置いてきたさ」
真剣な顔でそう返した。
レヴィアは、その真っ直ぐな回答に成る程、と肩を落としため息をつき、
「……成る程、確固たる意志はあるようですが……やはりあなたとは馬が合わないようですね。
本来の目的に戻りましょう、これを受け取ってください」
そう言ってレヴィアが紙をリオナへと渡す。
「なんだこりゃ?」
紙には何やら文字が書いてあるようで、リオナはそのまま紙を広げる。
「今から1週間後、ブルク城にてG-A同士で戦う大会が行われます。
私も出場する予定です。
詳細はその紙に記しています。
それで、あなたにも出場してほしいのです。
あなたの言う精神論でこの武術大会、どこまで通用するのか……私も知りたいのです
勿論、決勝に辿りついて貰う事が原則ですが」
レヴィアは紙に書いてある内容を大雑把に語り、そしてリオナへと宣戦布告する。
彼女の表情はそれにより、不敵な笑みが浮かぶ。
「上等だぜ?
その喧嘩は勿論買わせて貰う!
当日までに、俺達は今よりもさらに強くなってやる。
んでもって俺は優勝を目指す!
俺だけじゃねえ、ティニーもだ!」
彼女はティニーの肩を叩き、やる気満々の表れを示す。
「そうと決まれば、行こうぜティニー!
レヴィア、次に会う時は恐らくこの武術大会の開催場所だからな!
首を洗って待ってろ!」
そういって、スタスタとレヴィアのもとから去っていくリオナ。
ティニーは、レヴィアの方へ、お辞儀をし、そしてリオナの後を着いていったのだった。
大会の幕開けの日まで1週間。
リオナとレヴィアの関係が新たに築きあげられ、それを見ていたティニーも何だか楽しそうな表情をしている。
2人は大会に備え、目標を新たに掲げ、邁進するのであった。
【第2章 -戦いの礎- 終】
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- 2008-07-21
- 【RH】戦いの礎編
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