第19話『なんてこった』
リオナ、エレ、そしてレヴィア。三名は順調にBランクの試合を勝ち上がり、対戦を間近に控えていた。簡単に聞こえるが、ここに来るまで様々な相手が存在し、それぞれが決して楽ではない戦いに勝利しての結果なのである。
そしてついに、その瞬間はやってきたのである。
≪さあ準決勝です!!数多くの優勝候補に勝利してきたこの二人が激突します!!≫
≪まず赤コーナーからは、エレッサ・エキドゥナ選手の入場です!!彼女の周囲に何処にも死角は無し!最早偶然とは呼び難い!今回の試合でどういった戦いを見せてくれるのでしょうかァァァ!!≫
≪対するは!ここまでの試合でもはや疑う余地もない実力を見せた彼女!偉大な父を持ちながら、野性味溢れるその戦い方はもう父の真似事とは言わせない何かを感じます!!期待の新星!!その名も!!リオナ・レッドハート選手だ!!≫
≪Bランクの試合もついにここまで来ました!この試合の勝利者が決勝戦へ進むことになるのです!!≫
アナウンスが響き渡るたびに、割れんばかりの歓声があがった。戦い方が全く違う二人。一体どんな戦いが展開されるのだろうか。
≪それでは、試合開始ーッ!!≫
カァン!
試合開始を告げるゴング音が闘技場内を鳴り響くと、この日一番の盛り上がりが会場全体を包んだ。
「エレ、ここまで来たからには容赦しねえからな!」
リオナのその忠告に、エレは頷いただけだった。先手を撃つべくリオナが動こうとしたその瞬間、
「・・・・!!」
既にエレの方から先手の一撃が迫って来ていた。
「今日はヤケに強気だな・・!?」
因みにエレは、両手ダガーによる連続攻撃を得意とし、手数で勝利する戦闘スタイルをとる。
一方のリオナは言うまでもなく、愛刀のパワーを存分に生かした一撃必殺のスタイルだ。
リオナは、予想をはるかに上回るスピードのエレの先手をなんとか受け止めたが、有無を言わさぬ連続攻撃を前に、だんだん反応が追いつかなくなって追い詰められていく。
「くっ・・・!!なかなかやるじゃねえの!」
エレは決して攻撃の手をを緩めなかった。そう、エレは気づいていたのだ。
攻めの流れを掴めば無敵のリオナだったが、その一方で防戦は不得手だという事実に。
大抵の戦いは攻めて攻めて攻め続けたリオナ。彼女と戦った相手はその攻勢に押し切られて敗れ去ったが、それは相手がリオナのペースにのまれていたからだ。
―だがエレは違う。最初からリオナの思う通りの戦い方をさせてくれなかった。
ただでさえ一本の刀で二本のダガーの攻撃を全て受けきるには骨が折れるというのに、防戦に慣れてないリオナはそこから反撃のチャンスを奪い取ることができない。
「うっ!?」
エレのまるで踊るような連続攻撃に対し、リオナは回避するだけでも限界がきてしまった。直撃はしなかったが、受け流しきれなかった攻撃は着実にリオナの体を切り刻んで体力を奪っていく。無表情で、掛け声一つ無しに襲ってくる様はある意味何よりも恐怖を感じさせる。
―まさに修羅。
≪流石のリオナ選手でも、エレッサ選手の攻撃を受け止める事は難しかったか!?流れる動きはまさに蝶の様だーーー!!!≫
「いつまでも・・・ガードしてるだけだと思うなよ!!」
劣勢を何とか挽回しようとリオナは刀を強引に振り回す。がしかし、それも既に読まれており、エレの体やダガーにかすりさえしなかった。
リオナの精一杯の反撃も全て空を斬っただけに終わった。
「・・・・なんてこった」
その瞬間もエレは見逃さない。ジャストタイミングで、エレは両手を交差させて止めの一撃を放ってきた。
「しまっ・・!」
エレの攻撃は正確そのものだった。体勢を崩されていたリオナはそれを避け切れず、深手を負ってしまう。
「あぐっ・・!」
さらにリオナは技の衝撃で吹っ飛ばされ、勢いに逆らうことができずに無力に転がった。
「くっ・・」
なんとか起き上がり体勢を立て直す。
―しかし、途端に眩暈が起こって世界がぼやけだした。吹っ飛んだ反動で頭を打ち、それが十分に脳を震盪せしめていたのだ
足がぐらつき、前を向いているのか後ろを向いているのかさえはっきりしない。薄れゆく意識の中、リオナは理性を保とうとしたがそれですらなかなか上手くいかなかった。
(次喰らったら・・・やっべぇかもな・・)
「・・・・・終わり」
エレからポツリと放たれる無情の一言。
それでもまだ立ち上がるリオナに、エレは今度こそ止めとなる一撃を仕掛けてきた。
勝負あった。見ていた誰もが、そう思った。
(なんとか・・・!)
リオナがそう思うより前に、彼女の体は動いていた。
―そして、予想だにしない事が起きた。
無意識に握った拳が前に出て、それが既にエレを捉えていたのだ。
何となしに出した攻撃であったために、その攻撃そのものには威力はない……のだが、エレの攻撃のスピードが加算されているとするならば話は別である。すなわち、クロスカウンター。
仕留め損なったことが仇になった。リオナの異常なタフさはエレの計算外だったのだろうか。エレは人の心が読めるが、リオナが朦朧としていて不安定な意識からその攻撃を放ったために、読むことが出来なかったのだ。
力も腰も全く入っていないリオナの悪あがきパンチが、形勢逆転のボディーブローに変わった瞬間だった。
「うっ・・・!」
急所を一撃。この状況に、誰もが絶句した。
≪リ、リオナ選手の攻撃がそのままクリーンヒットになってしまったーーーー!!!もしかして攻撃を喰らったのは初めてではないでしょうかエレッサ選手!!!コレは一体どういう事なのか!まさかの展開に私既に混乱しております!!≫
エレは腹部を押さえ苦しそうだが、リオナの方をじっと見た。意識が薄れ、消えかかっていたリオナの心。なんとなくの攻撃にも反応できなかった自分を恨むエレ。
「・・・・」
しかし彼女はそれ以上に辛そうにしている。リオナのカウンターパンチが効いたというのもあるがそれだけでは無さそうであった―。
リオナはパンパンッ!と顔を叩き、気付けをして、よしっ!と一言気合を込める。
「これで終らせ・・・って!?」
異常な程にエレがよろめいていた。まるでバランスの悪い塔か何かのように、グラグラと体が動いていた。
そしてそのまま―
バタッ・・・。
重力に逆らわない、無気力な状態で地に伏してしまった。
「お、おい・・・エレ!どうしたんだよ!!?」
さすがのリオナも、まさか自分の一撃で・・?そう思ってしまい血の気が引いた。冷や汗を流しながらも、彼女の容態を見に行く。ついでにレフェリーもこの状況に、選手の状態を確認する。
「息は・・・しています。が、これ以上は不可能でしょう」
レフェリーはその言葉とともに、アナウンサーへと合図を投げかけた。その意味は正しく・・・。
≪ここで、レフェリーからドクターストップのジャッジが出ました!この時点でエレッサ選手の試合継続は不可能となり!よってこの試合の勝者は!リオナ・レッドハート選手だああああ!!勝者であるリオナ選手、このまま残るは明日行われる決勝へと進みます!≫
会場はどよめき、エレを心配する声も聞こえる。リオナも不安が募り、気が気でならないためか、頭の中は完全に真っ白になってしまっていた―。
決勝は明日行われる。この残った時間で何としてもエレの状態を確かめておこうと、医務室へ即座に向かったリオナ。
「エレッサ・エキドゥナ様ですか?彼女でしたら205号室で休んでおられ・・・」
「205だな!ありがとよ!」
看護師に部屋番号を聞いた瞬間に土煙を上げるが如くスピードで向かうリオナ。一刻も早く急がねばという思いが強く、少しも歩こうとしなかった。
「病院内では、走らずお静かに・・」
「エレッ!大丈・・・おっとっと・・大丈夫か・・?」
エレがいる205号室に入るなり、大声を上げそうになったが、それで追い出されたのを教訓に、今回は音量を小さめにする。
「大丈夫、眠ってるだけ。疲労が過ぎて、倒れちゃったみたいなの。安心して」
既にこの事態に駆けつけていたティニーとリィナ。リィナが質問に返答した。その返答に、
「はぁ~・・・よかった・・・ぜ」
張り詰めていた緊張の糸が解けた。胸を撫で下ろし、安心した刹那。
バタッ・・・。
―リオナが倒れてしまった。
そういえば先程の試合でエレの攻撃を随分と受けていたにも関わらずケガの治療がまだであり、服も血が所々滲んでいて、実は割と危険な状態だった。
「あっ!お姉ちゃん!だ、誰か!来て下さい!」
ティニーが必死に看護師を呼んでいるのだが、リオナにはこの時点で何を言っているのか分からない、そこまでに意識が飛んでいた。
(まぶたが重い・・・眠すぎる・・・ちょっと寝よう・・・疲れちまった・・)
そしてそのまま、リオナの目の前が真っ暗になり、意識は途絶えた―。
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- 2008-10-20
- 【RH】武術大会試合編
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