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Red Hearts 16話

第16話『インパクト・ブリッド』

ティニーの、「あっ!後ろっ!」という、今更見え見えのギャグにまんまと引っかかってしまったフェレトは、この屈辱で湧き上がった怒りによってついにティニーに対し本気でかかろうとしていた。

「私を怒らせた事を、後悔させてあげますわよ・・!!」

拳をギュッと握りしめ、ティニーへの殺意を見せる。先程のお嬢様とやらはどこへ消えたのか。

呪文をなにやらブツブツ唱え始めると、右手の紋章が光り、地面を抉り(えぐり)、消滅し、彼女の前髪が宙を舞うと、両拳に派手な装飾が施された。彼女の見た目どおりの美しく、しかしその美しさに棘があるといった感じだろうか。一撃を貰えば間違いなくノックアウトは必至であった。それ程の威圧感と殺気を放っていた。

「『インパクト・ブリッド』」

装飾された腕をプラプラと、下に、力なく垂らしそしてティニーの目の前に手を差し出すと、一本一本指をまるでカウントダウンをするかのように、ギリギリと握り拳を作り上げていき、

「『ゼロ』」

完全に拳の形になったその瞬間。ティニーの目の前から消え、気が付いた時には――。

「がふっ・・・!?」

超高速で吹っ飛ばされていることに気づくのに、吹っ飛ばされてから気づいた。あっという間にリング外の観客席に衝突。幸い、観客がいないあたりだったために観客にケガはなかったが、ティニーの場合は誰がどう見てもそうは見えなかった。ティニーが観客席に衝突したところだけ、まるで隕石でも落ちたかのように、破壊されていた。これには観客も黙り、アナウンサーも同じくして声が出ない。信じきっていたリオナの顔にも歪みが生じた。冷や汗すら流れた。今の見えたか?いや・・・?死んじゃったんじゃ?そんな声がちやほや、次第に聞こえ始めた。当のティニーを見ても、まだ砂煙が立ち込めていて生死が確認できない。しかし、あの一撃ではもはや立っていることが不思議すぎるほどである。
ここでようやくアナウンサーが声を出す。

≪ティ、ティニー選手・・・?≫

フェレトの方はというと、パキンッと、両腕から装飾を外し、地面に落とす。落ちたパーツは何故かそのままステージを同化していった。

「心配は要りませんわ。殺す程チカラは込めたつもりはないですわ。ですが・・・長い間目を覚ます事はできないといっておきましょうか」

テクテクと、レフェリーの方へ歩き、

「それで、私は勝ったんですの?負けたんですの?早く彼の生死を確認するなどして・・・」

と言いかけたところで、ガラッと、ティニーがいた場所から、石がズレる音がした。

「!?」

その音に気づきすぐさま振り向くフェレト。

「・・・げほっ、げほっごほっ・・・」

咳き込むその声はまさしくティニーの声だった。これには思わずフェレトも、

「仕留めそこなったとでもいうの・・・!?くっ・・」

がしかし、驚きの顔もすぐ緩まり、クスッと微笑んだ後、レフェリーの方へ向き、

「・・でも、場外のリングアウト。私の勝ちは決定していますわ。さあ、会場の皆様とともに、私の勝利を宣告してくださいな」

バッと手を観客へ向ける。それと同時に、レフェリーも今ようやく、

「勝者!フェレト・レジーナ!!!」

と大きな声で告げると、アナウンサーはそれに反応した。

≪勝者はフェレト選手です!!!ティニー選手も見事な健闘をしてくれましたが惜しかった!本当に熱い戦いでした!!≫

観客席からも大きく歓声があがった。

≪フェレト選手はこのまま第3試合へと進みます!次の試合も期待が高まります!!どうぞ観客の皆様もご期待ください!≫

会場は声援で包まれた。ティニーの方も、救急隊員がかけつけ、ティニーを壁から引っ張りだして担架に乗せ、そのまま闘技場内病室へと運んでいった。すぐさまリオナ達も病室へ駆け込み、容態を確かめに行った。





「ティニー!大丈夫か!?」

入った瞬間声をあげたリオナに、沈黙を要請する医師の睨め付け攻撃でよろけながらも、

「ティニー・・ブレイブスって人、どこだ?」

と、その医師に聞くリオナ。

「ティニーさんですか?あそこで安静にしていらっしゃいます。くれぐれも、お静かに!お願いします」

再度睨みつける医師。さすがのリオナも肝に銘じながら、奥にいるティニー安静にしているというベッドへと静かに向かう。彼が寝ているベッドへとたどり着くと、軽症のようで、包帯が少し巻かれている程度だった。あれだけの衝撃を直に喰らったわけであり、リィナには軽症であることが逆に不思議でたまらなかったようだ。先読みしたのか、エレが言った言葉は、

「・・・・気合」

という、抽象的すぎる根拠をただ述べただけだった。彼女にも、段々とリオナの言いたいことがわかってきたようだった。良い事なのかは別として。

「き、気合・・・なの?って、エレまでそんなこと・・・」

エレの答えに対し苦笑を浮かべたリィナ。

「う、う~ん・・・」

と同時に、ようやく目が覚めたのか、ゆっくりと目を開けながら呻き声をあげるティニー。

「ティニー!無事だっ・・・」

大声を出している途中、慌ててボリュームを下げるも、やはり医師や他の患者達の目が痛くなってくる。例を挙げるとするなら単騎突入で無数の矢を背中から浴びた感じに似ている。

とりあえずティニーが目を覚ましたということで、

「ティニーくん、どこも痛くないの?」

と聞いたのはリィナ。

「あはは、ちょっとあちこち痛いけど、なんとか生きてるよ・・・」

痛そうな声はあげるも、元気そうで何よりだった。リオナもさっきまでは血の気が引いていたが、今は安心しきった顔をしている。ティニーの頭をクシャクシャ撫でた。いつもよりも少々強めに。

そんな事をしている間に、コツコツと背後からクツの音がする。その音に気づいて、リオナは背後を振り返る。そこには、ティニーを負かせた力任せの貴族、フェレト・レジーナの姿があった。勿論彼女の後ろにはリオという女もいた。

「ここでしたの」

フェレトがそう一言呟く。

「何か用か?」

リオナが睨めつけながらフェレトを牽制し始める。がすぐにフェレトが視線をそらし、

「今はそういう気分ではありませんわ。それよりも・・・ティニー、でしたわね」

リオナから視線を外したと思いきや、ティニーの方へ視線を合わせ、近寄る。

「な、なんでしょう・・・」

冷や汗ながらもティニーが何の用事かを問う。

「・・・ふぅん」

マジマジとティニーの顔を見つめ、あわや顔を近づけたり・・・何がしたいのかよくわからないが、リオナがここで、

「お前・・・ティニーに如何わしいことしたら承知しねえからな」

この言葉に、さすがに顔を赤くし、

「な、なにをいってるんですの!!如何わしい事なんてするわけないじゃないの!馬鹿らしいですわ!」

「あはは~、如何わしいっつっただけだぜ俺は。何を妄想してたのかな~?このお嬢ちゃまは?」

エレは相変わらず無反応だったがここでリィナが場の空気に慌て始める。

「ちょ、ちょっと二人とも・・・」

と止めに入ろうとしたところ、医師がコツコツとこちらへ近寄り、フェレトとリオナの耳を引っ張って、

「すみません。お話するならお外で!!!!お願いしますね。患者様もいらっしゃるのでね!!!」

釘を打つかのように言い放ったあと、そのままリィナ達も道ずれに、全員が部屋の外の廊下へほっぽりだされてしまった

「っきしょー・・・まだティニーと話したかったのに・・・ホント何しにきたんだよお前!」

ビシッと指を突きつけてフェレトを押し倒してでも問いただし始めるリオナ。

「顔!顔近いですわ!ちょっと離れなさいな!話がし難いですわ~!!!」

なんとかリオナを突き放し、フゥ、と一息つく。ところで先ほどからリオという女はオドオドしながら見ているだけで特に助けようともしない。というよりは助けようとする勇気がないだけなのか。本当に何しに来たのかわからない。

とにかくと、フェレトは仕切り直して、リオナの方を向いた。

「私がここに来たのは特別な意味はないんですの。ただ一つだけの用事は持ってましたけども・・ですが追い出されてしまっては言いたいことも言えませんわ。はぁ、出直してきますわ・・・」

足早に帰ろうとするリオナはそれを逃がすまいと、目を光らせ、まるで手が本当に伸びたのではないのかといった具合に首根っこを掴んで、

「待ちな、そいつは超気になるな、用事ってやつ!おせーろおせーろ!」

もはやフェレトがリオナの前で玩具と化しているような感じな立ち位置になりつつあるのはリィナ達の目からみても明らか。ところで挙動不審なリオという女は本当に何のためにいるのだろうか・・・。

「さて、仕方ありませんわね・・・とはいってもそこまで用は無いと言ったのは確かな事ですわ。ただ・・・」

と言いかけたところでイライラしてきたリオナは、

「何だよ、あるのかないのか、ハッキリしろって!」

膨れっ面で、もはやご飯が待ちきれずお皿を叩いている子供、と言った感じだ。

「・・・はぁ、先ほど弱いと言った事を・・・その、お詫びってわけでもないですけれど・・・・したくて」

空気がピタリと止む。その空気を察知したのか慌ててフェレトは、

「そそそそそれに、コートを着たそこのあなた、どこかで顔をみたことありましてよ・・・!」

「え?俺の顔になんかついてんのか?」

「そうではなくってですわね!!!・・・やはりあなたのような変人が私の知り合いのはずがないですわ。私の気のせいと言うことにしておいてくださいな」

一人事で終らせるだけ終らせて、そそくさと、

「それでは、ごめんあそばせ」

人を卑下した態度は相変わらずだったが、淑女のように一つ挨拶をして、去った。

「なんだったんだあいつ」

としか言いようのない、変なタイミングで現れて、そのまま本当の用件が何だったのかも伝えずに、足早に去った彼女をはたからみても決していい印象ではない。





――とりあえずリオナ達は、このまま何もしないままでいるのも退屈なため、観客席からCランクの状況を眺める事にした。

因みに最後まで閲覧していたのだが、優勝者はフェレト・レジーナだった。彼女に勝つには、今のティニーではまだ何かが足りない。それもそうだ、村を出るまでは普通の少年だった。ここまで健闘できたことが凄いと言える。それに彼女がティニーを倒す際に唱えた魔道、アレも気になる所だった。

「リオナちゃん?何考え事してるの?」

リィナがヒョイッと、リオナの前に顔を出して気付かせる。いつの間にか考え事をしていたのか、そういった顔でリオナは、

「あ、ああ、わりぃ・・・多分腹減ってたからボーッとしちまってたのかもな」

それもそう、彼女の腹の音はどうも先ほどから犬の鳴き声と聞き違うのではという程の音を立てていた。

「あらら、私もお腹空いてきたし・・・エレもお腹空かない?」

リィナがそう問うと、彼女は当然ですと言った感じに、コクリ、とだけ頷いた。相変わらずほとんど喋らないが。

「ティニーは安静にしてっから・・・仕方ねえ、3人で食いに行こうぜ!ところで俺の得意技を一つだけ教えてやろうか?」

得意気な顔でリィナ達に聞くと、うーんとリィナが考え始める。が、ここでエレが、





「・・・・・・・・犬」

と一言だけ。その解答に少し戸惑い、

「犬?犬っていうか・・・まあいいや、正解は、美味しい店の匂いを瞬時に嗅ぎ当てる・・・ってとこだな」

その解答に、リィナがぷっと吹き出すように笑い、

「あははは!エレがいった犬って、そういうことなの!あはは!匂いを嗅ぎ当てるなんて、犬みたいだね、ってことなんだね!」

コクリ、とだけ頷き、肯定する。さすがのリオナも、これには笑い出す。

「あはは、おいおい、犬ってことはね~だろ、俺が野生児みたいじゃねえか!」

「あはは、犬~!犬耳~!犬耳リオナ~!」

「てめえこのやろ~!」

2人の笑い声と、1人の、動いたか動かないかわからないミクロ単位に微笑んでいる、少女達の楽しい食事会は始まったのだった。

―因みにリオナがこの後、相変わらずの大食漢っぷりを発揮したのは言うまでもなく、といったところだが―。

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