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Red Hearts 13話

第13話『迷子には気をつけてください』

「樹海を抜ければすぐブルク城です。・・・・それにしても」

道中、突然のように話を切り出すレヴィア。

「それにしても?」

同じ言葉で返すクロス。

「誘った私も悪いのですが、本当にこのまま放置しててもよろしいのでしょうか?」

突拍子も無い話を突きつけられ、はてなんの反応を返せばいいのやらと考えたクロスだが、とりあえず、

「放置・・・とは?」

と聞き返す。

「・・マリアのことです。確かに、あなたの他にも見張り役があるということは先ほど聞きました。ですが、この見張り役が、二手に分かれていたとしたら・・・あなたたちのように穏和に見守る方もいるとするならば、己の欲望のままに過激派もいてもおかしくは無いと思うのですが」

ようやく話の意図がつかめたクロスは、成る程と言わんばかりの頷きで、

「確かにね。報酬はいくらだったかな。魔族として覚醒し、それを鎮圧した者には・・・確か『500万クォー』・・だったかな。何も起きなければ名乗り出た参加者のみ全員に『1万クォー』。・・こんだけの差があれば、誰だって欲に目が眩むさ」

レヴィアは顎に手をやり、考えこむ感じに、

「500万クォー・・・」

確かめるように呟いた。

「500万クォーさ。過激派はいるだろうな。相手が少女だとしても手を出すやつらくらいはな。もしそういうことが事前に起こりそうになったとき、俺はやらないが、他のヤツがその過激派を抑えこむ。この前その現場見ちまったからな。殺し合いはないが鎮圧する程度か・・・それにな」

頭を掻きながら何か思い悩み始めた。

「・・・何か問題が?」

レヴィアがそう返すと、いやあ、と言って、

「・・・マリアのファンクラブがあるみたいでな・・・遠目に見ても可愛いらしくて、それでいてあの健気さだろ?ま、そういう何かしろの集まりがあるんだとよ。死んじまったもんなら、ファンクラブが激怒しながら殺しにかかるだろうよ・・どんなやつだろうと・・ね」

今はっきりとわかったことは、思い悩む顔ではなく、呆れ顔の間違いだった。レヴィアも思わず、は?という顔に変わる。

「・・・まあでも、そういう組合があるのならば、逆に安全かもしれませんね」

その答えに、クロスは頷くが、

「まあそうなんだけどね、聞いた話によると、マリアの土人形を作って、飾ったりとかしてるみたいだぞ。・・・人間はわかんねえな」

はは、と、苦笑を浮かべ、クロスは語った。確かにそのような組合が存在するならば、迂闊に過激派も手を出すことを恐れるのではないだろうか。

「ふう、まあとりあえずは一安心・・・っていうことでいいですね」

なんとか不安は紛らわすことができそうだった。痛い集まりはあるようだが、それでもマリアに痛手は無いと思ってもいいだろう。


――と言いたいところだったが、樹海に入って暫くのところで、

「その前に、もう一つだけ不安があります」

クロスとレヴィアは目の前を見る。

「え?もう一つ?・・この樹海・・霧か・・・?」

突然、目の前に霧が立ち込めてきたのだ。

「とても濃い霧ですから気をつけてください。この霧の樹海は、『デュー山』が近い証拠です。・・こんな下の方でもこれ程ですから、足元や迷子には気をつけてください。でなければ・・・」

チラッと、クロスの方を振り向いたレヴィアだったが・・・時既に遅し。

「・・・・・・・・生きて帰れる保証がないですから・・・はぁ」




レヴィアの溜息をよそに、一方のクロスの方はというと―。

「ぬおー!?ど、どこだ?!え、えーと、しまった名前聞きそびれた・・・」

既にドジ踏んでしまった後だった。

「全く・・・さてどうしたものか・・・ん?」

ここで、いつかどこかで見た風景を再度見ることとなる。あちらから何やら足音が響いてくる。こちらへと向かってくる音に似た・・・いや、確実にクロスのもとへと歩いてきている音だった。

「・・・さっきの・・・名前聞きそびれた女の子とは違うみたいだな」

スッ、とクロスは足音に警戒する。そして霧の中から現れたのは・・・。

「この霧はねえ、君。生死に関わる程の危ない樹海だって、どなたからか聞いた事はなかったのかい?・・・なんてね」

奥からやってきたのは一人の、いや、

「奥からやってきたのは一匹のモンスター、なんてね」

解説を自分で行う魔物だった。

「ちなみに言っとくと、俺の種族は魔物じゃなくて魔族の方だけどね」

聞いてもいない事を語っていくこの魔族に、クロスは、

「この霧はお前が作ったのか?」

と、こちらも望みもしない質問で返す。魔族はイラッときたのか、でかい口ぶりで、

「シィット!俺の話をちゃんと聞いてほしいもんだね。例えば魔族と魔物の違いとかについて・・・さっ!なんてね」

上から被さった髪の毛みたいな形をした葉をフサッと掻き揚げると、魔族は先程まで口に咥えていた葉巻らしきものをペッと捨てる。

「さて、冗談はやめようか。ちなみにこの霧は俺が作ったもんじゃねー。ただ俺はそれ以上は言わねえ。お口のチャックは堅い方なんで・・・なんてね」

ツィーッと、口をチャックで閉めるかのように話す。先ほどからあまり喋っていないクロスは、真剣な目つきで、

「御託はいいよ。喋りすぎは早死するなんて、誰かいってなかったっけか?なんてね」

相手の口癖を真似し、挑発するクロスに、そろそろ相手の怒りも沸騰寸前だった。

「・・・俺の仕事はこの山に近づくムナクソ悪いファックなフナムシ野郎共を駆除すること・・・なんてね!!」

パシュッと、胸の辺りから待針よりもずっと細い棘状の物体を、クロスの胸あたりを目掛けて一本だけ飛ばした。

「!?」

咄嗟に感づく事ができたクロスは、飛ばされた針をかわした。

「・・・ま、今のはホンの挨拶代わり。今の避けてくれないと俺としてもつまらねえからさ~・・・んでもって、避けたヤツには俺の名前教える事にしてんの」

続きを語ろうとした魔族だったが、クロスはお構い無しに、

「うおおおおお」

と雄たけびを上げながら突撃してきていた。

「・・・・あんたも利口の方じゃないねえ。人の話は最後まで聞こう!・・なんてね」

足をズボッと地面へ埋めると、その勢いのままクロスの目の前に足を突き出す。

「うがっ!」

思いもよらない攻撃に戸惑い、攻撃を喰らってしまったクロス。上空へ打ち上げられるがなんとか受身を取り、着地し構え直す。

「・・・俺の名は『フロウェル』。そろそろ作者的に名前言わないと、文章書くとき魔族魔族で大変なんだよ!そこんとこ・・・考えてやってるかい?!なんてね!!」

クロスの足元から突然、触手らしきものが這い出て、そのままクロスの足を締め付け、拘束した。

「し、しまった!!これでは動くに動けん・・・」

不覚をとってしまったクロス。フロウェルは、にんまりと笑顔を浮かべると、

「ん~。すばらしき展開。減らず口も叩けねえだろ、このマヌケ野郎。ああ、口がまだ開いてた。それ、お口チャック。ついでに手も封じとくか。動かれるとファックだし・・なんてね」

フロウェルの触手と思われるものが次々とクロスの口や手を封じていく。

「ぐ・・・・」

ろくに喋る事も叶わない。

「はは、見るも無残ってね。足を埋めたときについでに俺の種子を地面に埋めておいたのさ。それぐらい気づけ」

先ほど挨拶代わりに針を撃った時の体勢へと変わる。

「さ、グッバイだ。ファックな事が起こる前に、殺そう・・さっきより多い、30本でいくか。ああちなみに、この針喰らうと、この針が肺のところまで行き届いて、毒や無数の針を自動で散布して、まあ窒息死でグッバイなわけ」

話も終わり、フロウェルの胸元には30本丁度の数の針が装填された。

「じゃあな。お前の相手はつまらなかったな。なんてね・・・苦しみながら死にな」

万事休す、ここで人生終わりか・・・そう思ったそのときだった。フロウェルの動きが何故かピタりと止まる。

「・・・・・こ、こここここ、この感じは・・・・まさか!!」

クルッと、冷や汗を垂らしながら山の方を振り向いた。

「・・・・・・・やめた」

シルシルシル・・・と、縛っていた触手は力を無くしたかのように、クロスから解けてしまった。

「貴様・・・なぜ殺さない!?」

死を覚悟していたクロスからすれば、やめたといきなり言われたならば聞くのが普通だった。当のフロウェルはこう答えた。




「産まれた」

「・・・・えぇ?」

突然ワケわからない言葉に、戸惑いを隠せなかった。

「そういうことだ。お前の相手してる暇なんかないない。それよりも・・・いやぁ~よかったぁあ・・・」

嬉しい顔をしながら、地面へと潜っていき、そのままどこかへ消えてしまった。一人残されたクロスもたまったものではない。

「・・・・・・・はぁ」

溜息ついているところで、今度は誰かの声が聞こえ始める。

「・・・・スさ~・・・?」

また聞こえる。

「・・・・ロスさ~ん?」

足音とともに聞こえる、誰かを捜し求める声。この声は聞き覚えがあった。ようやく姿が見えるくらいまで近づく。

「クロスさん、何迷子になってるのです?捜しましたよ。この霧はデュー山が近い証拠ですから、迷子にならぬようにと言ったはずなのですが」

やはりレヴィア本人であった。言うのが遅いよ、と言わんばかりの顔でクロスは、

「・・・ま、とにかくこの霧からとっとと出よう。・・・えーっと、名前聞いてないなそういえば」

思い出したかのようにレヴィアに聞くと、

「ああ、そういえば教えてませんでしたね。レヴィアでいいです。ではクロスさん、早いうちにこの霧から脱出しましょうか。この霧を抜ければブルク城はすぐそこですから。迷子にならぬように気をつけてください」

先ほどは痛い目を見たクロスだからこそわかる迷子の気持ち。

「ははっ、肝に銘じておくよ、レヴィアちゃん」

気さくな言い方で、苦笑いの篭った顔で答えた。と、ここでレヴィアがクロスの方へと振り向く。

「クロスさん」

突然呼ばれたので何事かと思ったクロス、まさか俺のことが?なんて妄想を膨らませながら耳を傾ける。

「ちゃんを付けるのは、やめてください」

釘を打つかのようにキツイ表情で言った。打ち砕かれた妄想と、この表情に、クロスは思わず、

「やれやれ」

と呟いていた。レヴィアに聞こえないくらいの声で。




霧の樹海をついに抜け、太陽も夕暮れの位置に近づき、そして大きな建物が見え始める。そう、あれこそがブルク城だった。ブルク城の下町にある門を潜ると、夕暮れだというのに人々の賑わいは予想以上のものだった。

「大会の申し込みは城内で受付にいけばいいですよ。あとこの人ごみですから、迷子には・・・」

チラッと、レヴィアが再度クロスの方を振り向く。

「・・・・気をつけてください・・・・何故私の近くには変な人しかいないのでしょうか・・・」

既にクロスの姿は人ごみの渦の中へと飲み込まれた後だった。これ以上説明する必要もないし付き添う必要もないということで、肩を落とし、溜息を吐き、とりあえずはレヴィアも城内へと足を運ぶのだった。




―ところで、一方のリオナの方はというと―。

「つーーーいーーーたーーー!!!」

リオナの声とともに、当の本人達も、ブルク城へと到着していたのだ。レヴィアよりは一足遅い感じだったがそれでも2日と、鍛錬をするには十分な時間があった。

「やっと着いたね・・・・それにしても広いなあ。さっきの霧の樹海はほんとどうなるかと思ったけど・・・あれ?そういえば・・・」

ティニーの言葉に、リオナは、ん?という顔をする。



「・・・エドさんどこだろ?」



「ああ・・・」



「まあ・・・いいか!さ、宿とろうぜ宿!メシ一杯食って今日はたっぷり寝てえや!」

一瞬思い出されたエドもあえなくメシの前では撃沈した。これだけの人だかりもいれば迷子になるのも致し方ないというものだった。


今回迷子になった人物は2名だったが、まあ恐らく彼らはどこかで元気にやってることでしょう―。

とりあえずは、大会まであと2日。リオナとレヴィア。二人の若き戦士は、震えが止まない正直な体を抑えこみながらも、2日という時間を鍛錬に費やしたのはもはや語るまでもない。

次回はその2日後。戦慄の走る大会の風景について語っていこう。大会は・・・そう、明日へと迫ったのだ。






―ところで、先程のフロウェルの『産まれた』という言葉の意味は何を意味していたのだろうか。今回は特別に覗いてみることにしよう―。

「おーおー、立派だったなあ・・・ハナコ、こーんな元気なベイビーを産むなんてなあ・・・ああ、可愛いなあ、人間みたいな糞ったれより動物の可愛さは異常だよなあ・・・あー・・・いいなあ・・・」

産まれたというのは、犬の子供の事だった。犬の子供に頬を擦りつけながら、可愛さに酔いしれていた。そう、彼がクロスを殺さなかった理由は、この犬の子犬がいち早く見たかっただけだった。

ワン。

【第3章 -武術大会前編-】

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