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Red Hearts 35話

第35話『逃げたかったの?』


「急げ、急患だ!
そこのお前もチンタラしてんじゃない!
救命をなんとしても間に合わせるんだ!!」

リオナが担架で運ばれると、城内の病院は一気に騒がしくなる。
付き添いにティニー、リィナ、エレ、ガイの4人が並ぶ。

やがて奥の紋章手術室の前へ辿りつくと、担架に乗ったリオナだけは奥へ進み、他の4人はドアの前にて待機という形になった。
手術室前で同じく1人立ち止った医者は4人に近付く。

「詳しい経緯は船内でも聞かせてもらいましたが、ストパクトスの毒と言うものは少々厄介です。
進行スピードこそ遅いのですが問題が…」

「特効薬が少ない、だろ?」

ガイは医者の事情を知っていたかの如く、先に言葉を紡ぐ。

「そう言う事です。
…ここでこれ以上の会話は邪魔になりますので、私の研究室へついてきてください」

医者の言われるまま、研究所へ赴く事になる。


***********************************************


階段を上っていき4階に着くと、一本道の廊下となっており、左右向かいあうように扉がいくつも設置されている。
所々名前の欄が抜けている所は誰も使っていない事務所となっている。

奥から2番目の扉の前にたどりつき、

「着きました。
さぁ入ってください」

ノブを回し、ガチャッと音を立て開ける。
部屋の中は…。

「あれ、想像するよりも全然散らかってないわね」

リィナは部屋を見るなり思わず驚いてしまう。
医者の部屋の中はそれなりに掃除されており、本棚も整えられ、書類もきっちりまとめられている。

「そうですね、私は部屋が汚いのがあまり得意ではない性分ですし、親からもうるさく言われてきましたからね。
研究書類や論文等全てファイルで閉じて保管してるんです。
みなさんが予想する研究者の様子とは少し違うかもしれませんね」

医者はどこかから取り出したクッキーを机の上に置く。

「さあどうぞ、そこのソファにかけて頂いて結構ですから。
紅茶も今出します」

「じゃあ遠慮なく頂くかな。
最近俺も仕事続きで久しく喰ってなかったからなぁ…お菓子なんて」

一番乗りでソファに腰かけたのはガイだった。
御もてなしに関してもはや遠慮なしといった感じだった。
既に一切れ目に手を出している。

「あ”っ!
しまった最初の一枚目が!!」

リィナがすぐさまソファに腰かけ、クッキーを貪り始める。
すると2人の中で何かが刺激しあっているのか、お互い食べる速度が徐々に早くなっていく。

「あ、あはは…僕らの分も残しておいてね…」

頭を掻き、ティニーがそう言うも、

「ばがひゃろーふぃにー!!
(馬鹿野郎ティニー!)
ふぉいふはひひふふぁふぃふかふぉばばかいふぁんばぼ!
(こいつは生きるか死ぬかの戦いなんだよ!)
ふぇをふぉめたふぁふがふぁふぇば!!
(手を止めた奴が負けだ!!)」

「ふぉうよふぃにーふん!
(そうよティニー君!)
えんひょひふぇるひとふぁふぁいごひはそふふぉふるのふぉー!!
(遠慮してる人は最後には損をするのよー!!)」

ティニーの耳には何を言っているか聞こえなかったが、

「…怒られてる」

読心術で読みとれるエレからの通訳が行われた。

「ハハ、2人とも、糖尿病と肥満だけには気を付けてくださいよ」

医者の一言にリィナは咄嗟に必死な顔で振り返り、

「ひ、肥満!!?
そ、そうだった…忘れてた…
美味しかったからつい夢中になって…」

さすがのリィナも肥満になった自分を想像したためか食欲を失う。
ガイは勝ち誇った顔で、余韻に浸るため注いであった紅茶を流し込む。

完全に飲みほした所で、カップをゆっくりと皿の上に戻すと、真剣な表情に戻る。

「で、だ。
ストパクトスの毒を解くための解毒剤はどこにある?」

話を切り出すガイ。
コクリと頷き、医者は話す。

「はい。
解毒剤、もとい解毒草の居場所は…“リルダール村跡地”です」

その村の名前を聞き、ガイは少し驚いたが、

「成程、“人気が途切れた場所に生える草”だったな…確かにあそこなら生えててもおかしくはねぇ。
幸、城からさほど遠くはねえ」

「つい最近、研究者が立ち入った時に偶然見つけたようなのですが、“妙なもの”を見たそうで」

「妙なものって?」

医者の言葉にリィナは質問する。
はい、と呟いてから言葉を紡ぐ。

「ここからは研究者の話なのですが、何やら立てられた銅像の回りを魔物達が延々と回り続けていたそうなんです。
それも大勢で…。
言葉を喋る魔族もいたようで、何かをぶつぶつ唱えているのが聞こえた…と」

「それで逃げて帰ってきて収穫は少し、だったわけですか?」

ティニーの言葉に、その通りです、と医者は返す。
話の流れが段々と掴めてきたティニーは、さらに続ける。

「だったら、僕らに行かせてもらえませんか?」

こちらから先にお願いしよう、と考えたティニーは先行を仕掛ける。
ほう…とガイは思わず感心する。

「有難うございます、頼もうと思ってたんですが逆にお願いされるとは思っていませんでした。
是非ともお願いします。
これ、渡しておきますね」

医者はお礼を述べて、机の引き出しの中から一枚のカードを取りだす。

「これを立ち入り禁止区域にいる門番に見せてください。
本来、一般のG-Aの人は専用の通行許可証を発行しなければならないんですが…。
今回は特例ですので」

そう言って、証明証をティニーに渡す。

「俺も案内を兼ねてついていってやろう。
あそこには俺も丁度、用があるからな。
あと、力の使い方がなっちゃいねえからプラスで修行をつけてやる。
ぶっちゃけ、リルダール周辺の魔物どもは相当手強い。
が、戦いの手助けはしねぇ。
覚悟しとくことだな」

ガイはフッと鼻で笑い、ティニー達に提案する。
その提案に、彼等は即座に頷く。

「ガイさんから直々に修行してくださるなんて、光栄です。
どんな事でも乗り越えてみせます!」

「その意気だぜ。
お前らをAランクにも余裕で勝てるプランで鍛えてやる。
いいか!!」

はい!と研究所内には3人の返事が響く。
うん、うん、とガイは納得の表情で頷き、医者の方へ振り向く。

「んじゃあ、行ってくるから、娘の事、頼んだぜ。
クッキー、ごっそうさん」

「わかりました、毒の処置と生命維持はこちらで厳密に行っていきます。
ですがなるべく急いでください。
期限は…今から4日といったところです」

「了解だ。
4日…急いでいけば余裕で間に合うな。
行くぜ、お前ら!」

ガイはシュバッと医者へ腕で軽く敬礼する。
そしてリルダールへ向かうため4人は研究室を後にする。


***********************************************


ガイ達がリルダールへ向かい、2時間経った後、リオナの手術は完了する。
しかし手術といっても、毒の進行を抑え、点滴を繋ぎ、生命維持紋章装置をつけた程度であり、実際の完治には繋がらない。

病棟へ運ばれ、暫くガイ達が帰還するまで待機という形になる。

目を閉じたまま、リオナは動く事すらない。
解毒できるまでは、ほぼ植物状態である。


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リオナの夢の中。
ストパクトスに記憶を大きく掘り起こされた上に、実際の記憶には問題はないが模造までされた世界を見せられている。
目の下には青いクマが出来ており、表情はひどく疲れきっている。
動く気力もないのか、胡坐をかき、座り込んだままである。
そう、リオナの精神状態は、ほぼ壊滅的だった。
このまま毒を取り除いたとしても、彼女の心が立ちあがらなければ、意味は無い。

テンッ…テンッ…と、ボールが跳ね、リオナの目の前で止まる。
空想の中で作られた子供たちがリオナに近付き、

「おねーさん!
ボールとってください!」

その言葉にリオナは反応し、ボールを見つめ、子供たちがいる方へ振り向くと、掴んで投げる。
上手くキャッチした子供達。

「ありがとう!
おねーさん!」

手を振りお礼を言う子供達。
しかしリオナは笑顔で返す気力すらない。
そのままそっぽを向く。

「あら、あんたたち!
あの女の人に近付いちゃダメでしょ!」

ふいに、子供達の親の声が聞こえる。
リオナを批判する声だった。

「あの人は村の裏切り者なんだから、近付いたら裏切られて殺されちゃうわよ!」

空想のでっち上げが始まっている。
しかし、リオナは言い返そうともしない、逆に心に受け止めて、絶望し耳を塞ぎ込む。

「裏切り者…か…」

涙も枯れ、喉もほとんど機能しなくなっている。
もはや呻き声しか出ない。

…暫くすると、ザッ、ザッと砂を靴で蹴る音が近づいてくる。
その音のする方へ、リオナは振り向く。
“また誰か俺に言いに来たのか…?”そんな恐怖心を抱きながら影を見続ける。

「お姉ちゃん」

影がハッキリした所で、リオナは驚愕した。
その姿は、まさしく、

「クリ…坊…?」

幽霊船で見たクリスそのものだった。

「…お前、どうしてここに?」

リオナの質問を聞き、クリスはゆっくり答える。

「お姉ちゃんにも、まだお礼いってなかったから。
それにお姉ちゃん、僕達のせいで、酷い目に合ったみたいだから」

クリスの言葉に、首を横に振り、必死に否定する。

「そんなことはない!
…俺が、俺が悪かっただけなんだ。
お前達は何も悪くなんかねぇんだ…。
そう、俺が…」

自分の言葉に段々と顔が俯いていく。
“何言ってんだろ、俺…”そんな事を心の隅で思いながら、自分を責める。





「逃げたかったの?」

クリスがふいに、そんな事を聞く。
リオナはハッとなり顔をあげる。

「違う…俺は…逃げようなんて…」

「じゃあ、どうしてここでうずくまってるの?」

「そ、それは…。
俺が…村から逃げたから…。
皆が…逃げたって言うから…それで…。
俺もうどうしたらいいか分からなくて…」

頭を抱え、更にうずくまるリオナ。
周囲からは、ざわざわ…とリルダールの人々が集まってくる。





「俺…もうこの旅、やめた方がいいのかな…。
こんなにも人に迷惑かけて、わがままばっかり言って…散々振りまわして…。
逃げて…落ち込んで…どうしようもなくて…」

辺りが静まり返る。
リオナのしゃっくりだけが辺りに響く。

暫くすると、クリスは近付きこう言う。

「でも、お姉ちゃんはどうしてここまで来れたか知ってる?」

えっ?と呟くリオナ。
それに合わせ、リルダールの群衆から知った顔が出てくる。

「どうして彼らが、お姉ちゃんについてきてるか、知ってる?」

クリスが示す“彼ら”、それらはティニー達の事だった。
群衆の中から3人、リオナの前に姿を表す。

「僕はお姉ちゃんに救われたからこうしてついていけるんだ。
あの時救ってくれなかったら、僕はずっと喋れないままだったかも。
僕はお姉ちゃんを…信じてるから前に進めるんだ」

ティニーが自分の気持ちを説明する。
その言葉の温かさが、リオナには何故か伝わってきた。

「リオナちゃんとはまだ出会いが浅いけど、それでも私とエレにも優しくしてくれた。
そんな優しくて格好いいリオナちゃんが私達は好きだよ」

リィナがティニーに続いて話す。
そうして、エレが近付く。

「…わがままだっていい、迷惑だっていい。
受け止めてフォローするのが仲間であり、友達…だと私は思う…。
自分を信じて、仲間を信じて…そんなリオナちゃんが皆は好き。
私も…好き」

「みんな…。
俺…俺…でも…村を裏切って…」

3人の言葉に心が震えるリオナだったが、それでも村の出来事を捨てきれない。
その時、今度は2つの影が群衆から現れる。

「リオナ…」

大人の女性と緑髪の子供。
その姿は母のキサラ、幼少の頃の友達、ファーラだった。

「あたしたちは、リオナちゃんの事、憎んでなんかいないよ。
村のみんなもそう!
元気なリオナちゃんが好きなの!」

ファーラの言葉が耳を通り抜け、脳に焼きつく。
久々に聞いた声。
その優しくて重い言葉が、リオナの心に深く刻まれる。

「リオナ、私が死ぬ時…なんて言ったか覚えてる?
“私の分まで気高く生きなさい。そして、お父さんの事、私の分まで愛して生きて”って。
私は…お父さんとリオナ、3人でいられるだけで幸せだったの。
こんな形になってしまったけど…。
私、あなたの事、大好きよ。
だから、落ち込まないで。
気高いその心で、私達を乗り越えて。
あなたに、“こっち”側は早すぎるもの」

母の言葉を聞き、リオナは枯れていた涙が再度溢れだしてきた。

「お母さん…乗り越えるっていったって、どうやって乗り越えればいいの?
ねぇ、教えてよ、お母さん!」

リオナは涙を流しながら必死に回答を求める。
キサラは彼女にそっと近づき、抱きしめる。
“温かい…”そんな事をリオナは思う。

「それは…あなたがこれから考えていく事なの。
大丈夫、あなたは私とお父さんの子供。
絶対うまくいく。
思い出して、あなたがこれからすべき事。
乗り越えて、あなたの今までの人生を」

スッ…と音もなく、抱きしめていたリオナの元を離れる。
暗黒に包まれていた天が光り輝くと、キサラ、ファーラ、クリス含め、村の住人達はその光の方へ昇っていく。

「ま、待ってよお母さん!!
俺、まだ…母さんと話しが…」

言いきる前に、キサラ達は光の中へ消えていってしまった。

“大丈夫。
自分と…仲間を信じていれば必ず道は開けるから…”

最後の言葉がリオナに聞こえる。
そうして元の暗闇に戻る。
それ以上、キサラ達の声が聞こえる事はなかった。

「まだ…抱いて欲しかった…。
お母さんのぬくもり…もっと知りたかった…」

ポタッ、ポタッ…と、リオナの涙だけが、辺りに響き渡るのだった…。

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