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Red Hearts 34話

第34話『悪いな…不器用だからよ』


―少し前の話。
リオナ達がギルドマスターの元を去り宿屋へ移ってすぐの事である。

「ガイさん!」

レヴィアの声がギルドの廊下を響く。

「レヴィアか。
なんだ、その説教したそうな顔」

ガイの言葉通り、レヴィアの顔には怒りが見える。
そしてその言葉に対し感情的に回答する。

「いい加減にしたらどうなんです?!
あなた達の今までの事は、私自身幼い故分りかねますが、今の私にも分かる事があります!
逃げずに立ち向かったらどうなんですか!?
リオナさんをこのままにしておいて…あなた自身は納得してるんですか!!」

「でけえ声でまぁ…」

「真面目に答えてください!」

レヴィアに怒鳴られ続けるガイもさすがにため息が出た。
少し間をおくと、ようやくガイは話を続ける。

「…確かに納得はできねえさ。
俺自身も、“あん時”の事が無けりゃ、リオナをこの世界に巻き込む気は無かった」

レヴィアから目をそむけ、拳をギリギリと固める。

「あの時…ですか」

真剣な表情で聞くレヴィアはガイの言葉を復唱する。
ガイはフッと鼻を少しだけ鳴らし、

「…そんな事を考えてるから逃げてるって思われたのかもしれねえな。
今までのツケが回ってきたのか…」

ガイは彼女の方へ向き直り、冷静に答える。

「だがなレヴィア、ガキってのはいつまでも親のスネかじってメソメソしていいだけの器じゃねえんだ。
そんなのは生きているだけの屍だ。
…親としては失格かもしれねえが、俺にも意地はある。
あいつには過去を乗り越える必要がある」

そう言ってガイは固めている拳に炎を灯す。
その途端に、ガイに対し身震いを覚える。

「…見られたくねぇんだ、俺の復讐に燃える炎を、よ。
染まってほしくねぇんだ、憎悪の色にな…。
今の俺はクソッタレゾランダドスをぶちのめす事で頭ん中がやられちまってるからよ」

それはレヴィアも初めて見る剣豪からの激しい殺気だった。
レヴィア自身、動く事が出来ない程の憎悪である。

「だからこそ俺はあいつと一緒にいられねぇんだ」

拳から炎が消えると同時に、彼から放たれていた憎悪のオーラが消える。
レヴィアの額からは冷や汗が垂れ落ちていた。

「そ、それでも…それ…でもっ…うっ…」

言葉を話そうとしたレヴィアだったが、先程のオーラを目の前で見てしまったため口が上手く回らない。

「わかってる…。
…お前は両親に捨てられてる過去がある…。
子を突き放そうとする俺を見て自らの記憶と照らし合わせたんだろ。
だから俺の行動が許せなかった」

「…私の事は…いいんですよっ…」

少しムキになりながら返す。
図星か、と呟きながらガイは言葉を続ける。

「皇帝を追うといったがあれはもう少ししたら、だ。
エレッサとかいうリオナのツレ…読心術持ちだとは思わず悟られてしまってな。
仕方ないからあの子だけには言っておいた。
“俺が暫くお前達を監視させてもらう。
手助けは出来んから自分達がなんとかできる事はなんとかしろ”とな」

「…どうしてそんなに回りくどい事をするんです?
しかもわざわざ監視という真似までして」

ガイの行動に不思議でならないレヴィアは思わず質問をする。

「これ以上は回答できねぇな。
ただ1つ言えば、“あいつらは自分自身を越えられるか”を見たいだけだ」

「そう…ですか」

レヴィアには言いたい事が沢山あったがそれ以上は何も聞かない事にした。

「不満そうだな?
悪いな…不器用だからよ。
お前も研究残ってんだろ?
俺はもう行くが、お前も無理しすぎんなよ。
努力家なのは認めるがよ」

彼女はうつ向いたまま何も言おうとしなかった。
それを見ていたガイだったが、じゃあな、と背中を向けたまま手を振り、レヴィアの元を去って行った。

「男の人とは…何故こんなにも馬鹿なんでしょうか…」


***********************************************


そして現在、船内の機関室にて…。

「このォッ…!
お姉ちゃんを…離せ…!」

ティニーにとってはいてもたってもいられない状態だった。
相変わらずリオナは相手に幻覚を見せられたまま身動きがとれぬままである。
エレは持ち直すのに時間がかかっているようだ。
リィナは弓矢でティニーの援護を行っている。
次々と攻撃をストパクトスへ仕掛ける。
だが、ことごとくゲソに吹き飛ばされているためか、ティニーの服は破れ、全身傷だらけである。

ティニーは口から滴る血を手で拭い、何度も挑戦する。

「ティニー君…ティニー君!!」

リィナは叫び呼びとめて態勢を整えようとしたが、そうもいかず、何本もあるゲソが飛び交い集中する事ができない。
そして無情な一撃がティニーへ襲いかかる。

ゴキッ…!

「ぐあッ…」

右腕の骨にヒビが入る音が鳴る。
ゲソは太く、ティニーの小さな体では一度防げたとしても、何度も防ぐ事は敵わない。
そのまま勢いでリィナ達の元へ吹き飛ばされる。

「くっ、今治してあげる!」

「…私が引きつける」

傷の修復も終え、ようやく戦線に復帰できるようになったエレは、両手に剣をとり構える。
ストパクトスに牽制し、攻撃を自らに向けさせる。

「ごほ…ぅ…こうしてる間にもお姉ちゃんが…」

「わかってる、私だってわかってる…のよ…」

チーム全員の気持ちが焦り始めてきている。
ここまできて随分と輪が乱れ始めており、リィナの治療にも力がなくなってきている。

「諦めちゃダメなのに…ダメなのに…!
ダメなのに!!」

ポタッ…とティニーの頬にリィナの涙が落ちる。
ティニーの心にも正直、そういった念が芽生え始めていた。
それは遠くでストパクトスを引きつけているエレも同じだった。

「僕達じゃ…お姉ちゃんを…」

ティニーが言葉を紡ぐ。





最後まで言おうとしたその時だった。

「…………らぁぁぁぁぁああああああ!!」

ドガァンッ!!

突如、魔力の魔物の上から天井を破り何かが声をあげながら降ってきた。

衝突と同時に床に貯まっていた水が舞い散り、雨のように落ちる。
霧すらも吹き飛ばし、天井を突き破った場所からは光が降り注ぐ。

「グオオオォオオオオオオ!!」

重々しい声で魔物が悲鳴をあげている。
一番近くにいたエレがその落ちてきたモノの正体に気付いた。

「…!!」

諦めていた顔が一気に希望に変わった瞬間だった。
ティニーやリィナの心の変化にも時間はかからなかった。

「よぉお前ら、久しぶりだな…。
随分とまぁ…無茶しやがって…」

リオナを両腕に抱え、そこに立っていたのは、紛れもなくガイ本人だった。

彼女を抱えたまま跳躍し、治癒をしているリィナ達の元へそっと置く。
エレもその後を続く。

「リオナに毒が回り始めてやがる。
早い所コイツ倒してここを出るぞ!
傷の修復は終わってるな!?」

「は、はい!!」

リィナの希望に満ちた返事と同時にティニーも頷く。


「へっ、いい手際だ。
じゃあまずは目の前の邪魔くせえ魔物をぶっ飛ばして、ついでに隙も作ってやる。
合図と同時に突っ込んで、あいつの3つ目を3人で貫くんだ。
魔力の源になってるからあれを貫きゃ終りだ!」

コクッ、と3人は頷き、作戦は決行されることになった。





「娘をいたぶり、更にはツレまでボコりやがって、その罪は重てぇからな…!
丁度いい、いいもんを見せてやる!
この船も魔力でできてんなら思いっきり吹っ飛ばしても大丈夫そうだからな!!」

拳を握ったままスッと自分の眼前へかざす。
それと同時に装備していたガントレットが拳を守るように包む。

「漢の怒り、火山の如し!
拳に懸けるは、漢の花道!!」

口上とともに、拳にはリオナやティニーをも超える巨大な炎が纏われる。

「燃える漢のド根性!!
漢の業火で成仏させてやるぜ!!
うおおおおおおおお!!」

腕から放たれる爆風を推進力へ変換すると、ロケットにも似た速度で魔力の魔物に突進する。

「桜花爆砕けぇえええええええええええええええええええええん!!!!」

ドゴォオオオオン!!

拳に纏われた炎が辺りに舞い散り、それは桜の花びらを思わせる程美しい。
しかしその威力は絶大、魔物に衝突すると同時に爆弾でも落ちたかのような爆風が起こる。
3人は次の攻撃に備えるため、爆風をなんとか堪える。

完全消滅。
魔力の魔物はガイの一撃により、完全末梢した。

爆風も収まってきたところで、

「今だッ!!」

ガイは3人に掛け声を放つ。
その声に反応し3人は完全に怯んでいるストパクトスの元へ一直線に走る。

「これが目か!
いくよ、せーの!!」

ティニーの声に合わせて、エレ、リィナはタイミングを合わせて3つの目を突き刺す。

ザシュッ!

「グオオオオオッ!!」

ストパクトスは悲鳴を大きく上げる。
魔力の源である3つの目を貫かれた事により、魔力の船は崩壊を始める。
そして魔力を制御できなくなったことで限界点を越え、ストパクトスの体が膨れ上がる。

「…!
爆発する、何かに捕まって!」

エレ、ティニー、リィナは各自魔道の障壁を張り爆風から身を守る。

「へっ、幽霊船はここで朽ちる、か」

ガイは横たわるリオナを守るように障壁を張る。

やがてストパクトスが白く輝くと、辺りを巻き込み爆発が起こる。

“ありがとう、お姉ちゃん達”

リィナの耳にはかすかに、そんな声が聞こえた気がした。

「…クリス君…さよなら」

17年間生き続けていた幽霊船は今、幕を閉じた。


***********************************************


爆発も収まり、船は姿を消して、海に浮いているのは木片だけだった。
それにしがみつく4人。
リオナは浮かぶ大きな木片に上手く横になっている。

「…とりあえずは依頼完了か。
俺は仕事が終わった事を依頼主に伝えてきてやるから、お前らは少し待機してろ。
リオナを少し見ててくれ、街から救護班も呼ぶ」

「は、はい…すいません、何から何まで」

「…お前らは見込みがある。
強くなれ、諦める真似だけはするな」

ガイは親指をグッと立てて、依頼主がいる船の方へクロールで泳いで行った。





「なんとも元気な人よね…さすがリオナちゃんのお父さんっていったところかしら」

「…今回は…ガイさんがいなければ僕達はこの戦いに負けてた…」

悔しさに肩を落とすティニーを見て、リィナはぽんぽんと背中を優しく叩く。

「強くなろう。
これからの戦いは今よりももっと激しいものかもしれないから。
今回のも、意味がないわけじゃない。
確実に経験値になってるから」

「…焦る必要はない…確実に私達は前よりも…ずっと強くなってる。
だから…皆で頑張ろう…」

2人の励ましに、ティニーは心が抑えきれなくなっていた。
体が震え、目からは大粒の雫が溢れ始めていた。

「リィナさん、少し…借りても…いいですか?」

「…いいよ。
ここで一生分泣いて、悔しさを分かち合って、強くなろう」

その言葉に甘えるように、ティニーはリィナに抱きつくと、大声で泣き始めた。

「泣き虫さんよね」

「…リィナも」

「…そうだね」

夕焼けが水平線を赤く照らす夕暮れ、ティニー達の、ヴェルメ海での任務は完了したのだった。

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