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Red Hearts 33話

第33話『奇跡に期待するのも悪い事じゃない』


艦内にある紋章機関制御室にて、とある日記を見つけたエレとティニー。
どうやら船長の物であり、内容は“機関室に何かがいる”ということを記していた。
本の最後のページには機関室へ行けると思われる鍵が入っている。
恐らくスペアキーなのだろう。

「いくしかないみたいだね、エレさん」

エレはティニーの言葉に頷く。

先を歩いていくと、厳重に作られた扉が目の前に写る。
恐らくこの扉こそが、機関室に続く扉なのだろう。

「…っ?なんだか急に寒気が…」

開ける前からティニーの体に異変が現れ始めた。
それはティニーだけでなく、エレの体にも起こっていた。

「ここから先がどうやら目的の場所…ね。
今まで何も起こらなかったのが不思議でたまらない程の威圧感を感じる…。
これだけの瘴気が溢れているのに…何故?」

異様な空気を感じ取るエレ。
足も覚束ない千鳥足の状態で、鼻血も出始めていた。
ティニーにはそれがたまらなく痛々しく見えた。

「エ、エレさん…?
大丈夫ですか?」

「…心配ない、私より真実を知る方が先…。
リオナちゃんたちを待たせてるかも…しれないから…」

健気さを見せるエレだったが、それでもすかさずティニーは彼女に肩を貸す。
その時、エレの口から「ありがとう」という言葉がティニーには聞こえた気がした。





扉の先は廊下となっている。
そしてその廊下を暫く歩くと、目的の場所である機関室に到着した。
白い霧のようなものが、辺りを包み込んでおり、視界が非常に悪い。
床には水が浸っており、歩く度に水が跳ねる音がする。

先に着いたのはティニー達らしく、リオナ達の到着はまだのようである。

「悍ましい程の瘴気…感じる…今までは寝てたみたいだけど…大きいのが来る…!」

バシャァンッ!

エレのその言葉とともに突如遠くの水が大きく跳ねたかと思いきや、巨大なタコと思われるゲソが飛び出した。
そのゲソの動きが激しいためか、大きく船を揺らす。
2人はそのゲソの動きを予想し、揺れに体を持っていかれないように踏ん張る。

「…“ストパクトス”…Aランクのモンスター…」

「え?」

エレの一言を聞きとる事が出来なかったティニーが思わず聞き返す。
エレはチラッとティニーを横目に見て、もう一度呟いた。

「“ストパクトス”、Aランクのモンスター…魔力を放つ物が好物なの。
機械であれ、人であれ…。
そしてその蓄えた魔力を操ってあらゆる人や物を兵として召喚する…。
それが…私たちが知ってる“幽霊”というわけなの。
恐らくこの船もストパクトスが生みだした魔力の幻影に過ぎない…。
いわばこの船はねぐらって事…。
食べた食糧によってはSランクにも値するのがいるみたいだけど…。
そうでなくても十分強い…」

「つまり…今の僕らじゃ勝ち目はないかも…って事?」

しかしエレはその答えに対しすぐさま返答する。

「でも私たちはチーム…BクラスとCクラスの集まりだけど、それなりに力は発揮してきたはず。
奇跡に期待するのも悪い事じゃない…どっちにしろ、倒さないと出れないから」

敵の顔がエレとティニーをジッと見つめ、照準を定める。
そして一匹一匹、次第には何数匹と、兵士を召喚する。
容姿は全てこの艦内の者と判断できるほど鮮明だった。

「僕も1人の男…ここは引き下がる場所じゃないハズ!
お姉ちゃん達が来るまで時間を稼ぐ!
エレさんは僕の後ろへ下がって!!」

ティニーの言葉にエレはハッとし、思わず笑いが込み上げてくる。

「くッ…ふふ…馬鹿ね…私たちはチームって言ったはず…。
それに私もここで足を引っ張るために来たわけじゃない!」

シャキンッ!と武器を取り出し構える。戦意高揚としたその眼差しを見たらティニーも諦めざるを得なかった。

「うん…そうだね…じゃあ行くよ!!
はぁぁぁぁあああああッ!!」

このティニーの雄叫びがリオナ達の元へ届くまで時間はかからなかった―。


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「この声…ティニー達か!?」

リオナはすぐさま声の主を聞きとった。
恐らく先に犯人を見つけ、戦いを仕掛けた所なのだろう。
そうリオナは感ずいた。

「ちんたらしてらんねえな!おいクリ坊!まだか!?まだ着かないのか!?」

クリスに急かすように言うリオナだったが、クリスの様子がどうもおかしかった。

「も…うすぐ…だよ…お姉ちゃん達…この先の扉いけば…そこに…」

苦し紛れに、クリスが指を扉の方向へ示す。

「この鍵で…開けて…おねがい…」

鍵をリオナへ差し渡すクリス。

「くっ…そったれええええっ!!」

思いの猛りを扉にぶつけ、鍵を差し込み勢いよく扉を開ける。
開けた瞬間、中からは吹雪とも思える寒気、風が2人を襲う。

「うおっ…霧か?!
前がよく見えねえ…しかも寒ィ…」

「リオナちゃん!あれ!!」

リィナが指し示す方向にはエレとティニーが剣を取り、魔導を用いて戦っている最中だった。
彼らの前方には多くの魔力の幽霊が群れを成していた。

「一匹一匹は大したことないようだな!
よっしゃティニー、エレ、加勢すんぜェ!!」

「だりゃああああああっ!!」

剣先に炎を集めるとそれが巨大化、群れを一気に剣の放つ炎で消し去った。

「お姉ちゃん!」

「…来た」

安堵の表情を見せるティニーとエレ。
2人は疲れを見せているものの力は落ちていないようでリオナは安心した。


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ストパクトスの方へ向き直す4人。
相手側もそれに反応するようにジロジロと眺めている。

「ありゃりゃー…なんとも気持ち悪い奴ねえ…」

そして次の瞬間、クリスの方を向き、ストパクトスが魔力を解き放つと、クリスが苦しむ姿を見せる。

「ああっ…うあああ!!」

「クリ坊ォ!
畜生!!」

リオナがクリスの場所へ飛び出しそうになった瞬間、リィナはリオナの勢いを止めるべく手を出す。

「何すんだよリィナ!
このままじゃクリ坊が…」

首を横に振るリィナは呟く。

「分かってる筈よ、リオナちゃん。
こいつは魔力の幽霊を作り出すストパクトスなの。
となればあの子は最初から…この船の…」

クリスに魔力の幽霊が1つの集合体へと変化しようと黒い靄を出し巨大化していった。

「くそ…俺はまた無力なのか…!」

項垂れるリオナをよそに、クリスの姿が3m弱はある、魔物の姿に変化した。
先程からいた少年の姿とは打って変わった非常に醜い容姿になった。
その巨大な魔物の肉体一面には人の顔や物が1つ1つ融合しているように見えて、非常におぞましい。

「一度召喚した兵士は融合とかは出来るけど体内へ戻す事はできないの。
あれを倒しちゃえばそこにいるストパクトスは魔力を失ったただの魔物。
クリス君には悪いけど…時は非情を選ぶ時だってあるの!」

(今のリオナちゃんでは感情に押されすぎて判断力が鈍ってるわ…。
そういうの好きだけど、今の状況じゃ命が幾つあっても足りない発想!)

リィナは言葉そう語り、リオナの発想に対し不安を抱きながら構える。
しかし取りだしたのは剣ではなく弓だった。

「私が使えるのは剣だけじゃないのよ。
本領は弓なんだから!
甘く見ない方がいいわよ!
くらいなさい、“アイシクル・アロー”!!」

辺りを包む霧を利用し、エーテルで高速で矢を氷結させる。
高速で発射された矢は孤を描く事無く直線で、まるでレーザーを思わせる速度で魔物の右足へ突き刺さる。

「グオオオオォッ!」

矢が刺さった場所からは肉面の呻き声が一瞬聞こえたが、そのまま瞬時に氷の矢が右手足を凍りつかせた。

「今よ、3人とも仕掛けて!」

「お、おう!!」

ザンッ!!

タイミングは完璧、3人同時の攻撃で圧倒したかと誰もが思った。

「やった!?」

状況としては完璧な一撃だとリィナは確信していた。
が、その思いも打ち砕かれたかのごとくすぐに不安な表情に戻る。

「ちぃッ、やっぱ船の紋章機関のエネルギーで動いてるだけのことはあるな…!
俺達の力じゃまだ足りねえってのか?!」

そして、リオナは突き刺さっている刀を抜くべく下を見る際に、魔物の足に写る肉面を見てしまう。

「…オイテイッタ」

「…!!」

エレは魔物の体からあふれ出る異様な感覚にいち早く気づく。

「ティニー君、リオナちゃん…!
目をそらしつつ離れてっ…!」

「う、うん!!」

ティニーはエレの近くにいたためにすぐさま言葉通り反応することが出来たが、リオナはその場から動かなくなっていた。
それに合わせてリィナは焦る表情を見せる。

「しまった…!
ストパクトスのもう一つの特殊能力はこれだったのね…!
その人間が持つ一番のトラウマを掘り起こし、囚われている所を毒で仕留める…」

その言葉に頷き、すぐさまリオナの救助に向かうエレ。
しかし、そのリオナに気を取られていたせいか、ゲソの攻撃が横から飛んできている事にエレは気づいていなかった。

「エレ!
よけて!!」

「…!!
しまっ…くあぁっ!!」

ガツンッ!!

リィナの言葉は虚しく響き、エレはゲソの攻撃をガードする事を間に合うことなく直撃を受けて吹き飛ばされる。

「かっ…あ…!
ごほっ…!」

攻撃に完全に怯んでしまっており、エレは立ちあがる事ができず咳こんでいる。

「エレッ!今、今治してあげるからっ!!」

エレが吹き飛ばされた方向へリィナが水の魔道を唱えつつすぐに駆けつける。

ティニーは先ほどの一撃を見て足がすくんでしまったのか、思うように動く事が出来ないでいた。

「僕は…僕はどうすればいいんだ…!
どうすることもできないの…?!」

目には思わず涙が滴っていた。
その雫がティニーの顎を伝わり、ピチョン…と音とともに床の海水と同化した。


***********************************************


―リオナには違う風景が見えていた。
先程戦っていた魔物はどこにもいない。

見た事のある風景に温かい日差しが注ぎこんでいた。

「森…?
…裏山だな…俺はここに何度か来た事がある」

見覚えのある森だった。
鳥はさえずり、草木はザァザァ…と風になびかせ周囲は音を奏でていた。

暫くすると土や草を蹴って走ってくる音が聞こえてくる。
歩幅も若い感じである。

その音がする方向へリオナが体を向けると、1人の走ってくる少女が見えてきた。
ポニーテールを揺らし、嬉しそうに走り回る姿を見て、リオナは驚愕した。

「お、おい、お前…」

話しかけても勢いを止めるどころかリオナに突っ込んできそうな速さだった。
しかし、スルッとリオナの体を通り抜ける。

「あれ?
すり抜け…って俺の体少し薄いぞ!」

よく見れば自分の体が半透明だった。
すり抜けた事にも気づかない少女はそのまま走って行った。





そしてそれを見ているうちに瞬時に風景は夕方になる。
すぐ目の前には先程楽しそうに走っていた少女が何かを見下ろしている。

その見下ろしている方向を見ると、村と思われる場所から煙があがっている。
街もほぼ破壊しつくすされているのが遠目からでも分かるほどだった。

「おかあ…さん…!
おかあさぁーーん!!」

母を呼ぶ少女の声にリオナは胸騒ぎがした。
そして気付いたのだ、リオナは今自分が見ているものが何かを。

「この子…俺だ…。
ここは…昔俺が住んでた“リルダール”…。
お、おい、待てよ!」





次に見えたのは燃え上がる村の風景。
少女時代のリオナは家の下敷きになった人や燃え上がる人々で一面血の海となっている地獄絵図を目の前にし嘔吐した。
焦げくさく血なまぐさい。
リオナにもこの臭いは耐えきれないものがあった。
少女リオナは走っていた。
それを追いかけるリオナ。
そしてリオナの心はいつの間にか少女リオナとして入れ替わっていた。
彼女はひたすら走る。
走る先に誰か1人でも生きていれば少しでも心にゆとりができると考えたからだ。

しかしそれも絶望に変わる。

次に見たものは自分の友人、ファーラだった。
家に下敷きにされ、家自体も燃えており、ファーラは死ぬしかない状態だった。

「ファーラッ!
死んじゃやだよぉう!!」

泣き叫ぶ事しか出来ないリオナは既に絶命してしまったファーラを置いてひた走る。





そしてリオナがかつて住んでいた家。
それすらも簡単に崩れ落ちていた。
落ちてきた柱などに挟まれ、そこには血だらけの母の姿、キサラの姿があった。

「おかーさん!!」

リオナの目からは涙が溢れ続けている。

「ねぇ…リオナ…どうして母さんを1人にしたの…?」

「え…?」

キサラは血だらけの状態でリオナへと憎悪の目を向けて話しかける。

「母さんを置いていかないでよ…ふふふ…ほら、そこの死体のファーラちゃんも何か言いたそう。
村の皆も」

辺りを見渡すと、いつの間にか彼女の周りには村の亡霊達が囲んでいた。
そして彼女のすぐ後ろには目から血を流したファーラが立っている。

「ち、違うもん!!
誰も置いてってなんか…ないもん!」

そう大声で叫んだものの、亡霊は誰ひとり聞く耳を持つ気がない。
“置いていった”、“逃げたんだ1人で”、“卑怯者のリオナ”、“許せない”。
そう言った言葉が八方から聞こえる。
耳を塞いでも直接脳内に流れ込んでくるほどに。





「うう…う…誰か…」

追い詰められるリオナは為すすべなく、ただしゃがみこみ泣くしかなかった…。

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