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Red Hearts 32話

第32話『落ち込まず信じてあげて』

「それで、あっちの本棚で何か見つけたか、リィナ」

その言葉にリィナは口を噤(つぐ)んだ。

「……うーん、しかし隣にあった扉は破壊されてたみたいだし探すとなるとこの書斎室しかねえはずなんだけどなぁ……」

二人でうーんと考え込んでいるところへクリスは再度リオナのコートを引っ張る。

「ん?
なんだクリ坊、どうかしたのか?」

クリスは手に何か持っていたようでそれをリオナへと見せた。

「お姉ちゃん、これあげる。
あっちのお部屋の鍵だよ」

「あっちの部屋?
あっちの部屋って……たしか扉が壊れてて入れるようには見えなかったけど……。
ねぇリオナちゃん」

2人が先ほどの大破した部屋を思い浮かべているところでクリスはひょいひょいと扉に走っていた。

「はやく、こっちこっち」

そう言い、考え込んでいた2人を急かした。

「元気のいいこったな……とりあえずクリ坊が言ってるところへと行ってみるとしようぜ」

「そ、そうね」

クリスの行く先へと2人は向かう。





部屋を出て先ほどの壊れた扉の方へと向かうが、何度みても壊れているようにしか見えないようだった。
しかもドアノブを見てみるとどう見ても鍵を差すべき鍵穴が存在しない。

しかしクリスが目指していたのはその扉ではなかったようだ。
大破した扉を通り過ぎ、そのまま壁の突き当たりまで進むと右へと曲がっていった。

「なるほど、あっちは完全に壁かと思ってたけど右に行けたんだな。
こりゃ見落とすところだったぜ」

恐らくリオナ達はクリスがいなければその曲がり道を知る事もなかっただろう。
そのまま奥へと進み、いくつかの扉を通りすぎ、やがてある扉の前でクリスが立ち止る。

「ここだよ。
ぼくがあげた鍵で開けて」

「おうよ」

言われた通りリオナはその部屋の扉を開けた。
その扉を開ければさらに下へと降りる階段がある。

「降りる階段か……ティニー達はまだ上にいるんだよな……。
この下になにかあんのか?
クリ坊」

その扉を開けたあとのクリスの顔は少し悲しそうであり、同時に恐怖の顔が浮かんでいた。
目をみれば今にも泣きそうな表情だった。

「お願いお姉ちゃん助けて、ぼくこの下が怖くて行けないの」

リィナの後ろに隠れ、階段を見つめながらガタガタ震えていた。

「確かに、なんか嫌な感じはするな……。
クリ坊、その前に上の階に俺たちの仲間がもう2人いるんだが、上からお前の言うこの下に来る事ってできるか?」

「う、うん。
上からも降りる階段あるからそこから来れるよ」

「よっしゃ、なら大丈夫だな」

その答えに安心したリオナは、クリスタルを握り、ティニーに念じ始めたのだった。





―同時刻、ティニー達も同じくリオナ達に合流すべく探索しているところだった。

と、エレがクリスタルの反応に気付いたのかティニーの胸元を見ながら一言、

「……クリスタル」

と呟いた。

ティニーがその言葉に気付き、胸元にあったクリスタルを見てみるとぼんやりと光り輝いていた。

「あっ、光ってる……ってことはお姉ちゃんから何かあったのかな?」

「……握ってみて」

エレの言われた通りにティニーはクリスタルを握る。
すると、リオナの声がティニーの脳内に直接聞こえてきた。

「“ティニー、聞こえるかー?”」

そのリオナの声に答えるべくティニーも念じる。

「“聞こえるよ!
どうかしたの?”」

「“おっ、聞こえたみたいだな。
こっちもそっちの声が聞こえるぞ!
こりゃ楽しいなあ~”」

初めての感覚にリオナは楽しそうにしているようだった。
ティニーも笑みで返した。

「“あはは、お姉ちゃんと近くで話ししてるみたいで不思議な感覚だよ。
それでお姉ちゃん、どうかしたの?”」

ティニーが用件を聞くべくそう問うと、リオナは、

「“そうそう、俺たち、下の階に向かう階段を見つけたんだ。
ティニー達と合流したかったが、どうも上からも俺たちが向かう下の階に行けるらしくてさ。
悪いんだけどそのまま俺たちが向かってる下の階まできてくれるか?”」

と彼女は指示する。

「“それって、お姉ちゃんのいる階よりも下ってこと?”」

「“そうだ!”」

「“うん、わかった。
なんとかして下の階に向かってみる!
それと……お姉ちゃん、気をつけてね”」

了解しながらリオナの事を気遣うティニー。
それはティニーだけではなくエレやリィナも同じなのである。

「“……っ、ティニーに心配されるたぁな、俺も随分女々しくなっちまったってことか……?
フッ、心配すんな、それよりおめえらも自分達の身を心配するこったな。
じゃあ、またあとでな”」

リオナのその言葉を最後に交信を終えた。
交信を終えてもティニーの顔はあまり窺わしくない。

「……落ち込まず信じてあげて」

そんなティニーに一言エレが言う。

「う、うん……ごめん、エレさん」

ティニーの言葉にエレは首を横に振る。

「……行こう、2人が待ってる」

無表情だが優しさを秘めたその言葉に、ティニーも頷き、

「うん……ありがとう、エレさん」

信じる事を教えてくれたエレに笑顔で感謝の気持ちを伝えたのだった。





奥に進むにつれ、周辺は暗さを増していく。

灯りとなっていた蝋燭もリオナがもっていたため、2人を照らす道具は何一つないのである。
しかし幸いな事に、ところどころだが天井に穴があいているため、うっすらとだが光が差し込んでいる。

エレが先頭で歩き進んでいるのだが、エレは扉をチラッと見ただけで一向に中身を調べようともしない。
ティニーもその後ろをついていく。

「エレさん、所々扉があったみたいですけど……部屋の中身調べなくてもいいんですか?」

どの部屋も通り過ぎてしまうエレに対しティニーが質問をする。

「……どの部屋も違う。
“気配”を感じる方角はまだ先……」

ぴっと指をその方角へ差し、エレはそう言う。

「そう……なの?」

とティニーは反応するしかなかった。

「そう。
さっき倉庫で見つけた鍵、これが使えるのは恐らく先の部屋」

エレがポケットから倉庫で見つけた鍵を取り出す。
ティニーはそれを見て驚いた顔で、

「あ、あれ、さっきそれお姉ちゃんが持ってなかったけ!?
それ、どうしたの?
ま、まさか」

コクリと頷き、エレは話しを続ける。

「この鍵にある残留思念……それを読みとったら“この階の奥にある部屋で使える”と聞こえたから。
だから穴に落ちる前に私が預かったの、それだけ」

淡々と答えていくエレ。

「そ、そっか」

表情を見せない喋り方にティニーはやはり慣れないものがあったようだ。

(う、うーん……優しい人ではあるんだけど……)

冷静さに包まれたその瞳と寡黙さを前にティニーはもはやどうすればいいかわからなくなっていた。

―しかしリオナとは逆の雰囲気を持つ彼女だからこそなのだろうか。
ふいにティニーは彼女が何故、心を読む能力を得たのかを無性に知りたくなってしまった。

だが、その心情を彼女に悟られてしまったようで、進めていた足をエレはふいに止め、

「……教えてあげる事はまだできない。
第一、思いだしたくもないから」

そう呟き、再度足を進めるのだった。

(だ、だよね……教えるのも辛そうだし、何よりプライベートの事だし……。
僕のバカバカ!)

ポカポカと頭を叩き、心のリセットを図るティニー。

(今は前に進まなきゃ。
ゆっくりなんかしてられない)

リオナ達のいる地下へ向かう事を最優先とし、ティニーとエレは歩み進む。





そうしているうちに、エレは一つの大きな扉で足を止めた。

「……感じる」

「か、感じるって?」

エレの言葉に思わず問うティニー。

「……」

彼女は黙ったまま扉に手を触れる。

そうして、スッとポケットから先ほどの鍵を取り出し、鍵穴へと入れようとする。
するとすんなり差し込むことができ、鍵を開けることができた。





そして扉を開けてみればそこは一人用のベッド、机、そして本棚が狭い部屋に置かれていた。

「……船長室」

部屋の残留思念を読みとり、この部屋がそうであったことをエレは理解した。

2人は中に入り散乱した本を調べ始める。

「……この本から聞こえてくる」

ガサッ!
とエレが様々な本に埋もれていて隠れていた本を取り出すと、どうやら船長が書いていた日記か何かだった。
ティニーもその本の中身を確認すべくエレへと近寄る。

エレは本のホックを外し、書かれている内容を確認する。

「“685年7月15日出港の朝、孫と部下を連れての旅行である。
孫がはしゃいでるのを見ると私も思わずはしゃぎたくなる。
今回の目的地はヴェルメ海にある小島。
私が漁をしている際に偶然見つけた、美しい島である。
孫や部下を連れ今回はそこへ向かう。
私自身も、正直楽しみである。
自作の船で旅行できるのもあるが、やはり一番は孫と出かけることである。”

なるほど、船長さんの日記だったんだね」

エレはコクリと頷き、次のページをめくる。

「“685年7月15日夜、本日は船の上だというのに充実した日々を過ごす事が出来た。
趣味で作った落とし穴の件も笑いが絶えなかった。
これだから茶目っ気はやめられん”

……ってちょっと!
あの落とし穴って船長がつくったものだったの!?」

リオナ達が落ちた穴のことのようで、船長が作ったものだと知った今、笑えばいいのか怒ればいいのかティニーにはわからなかった。

「続きがある」

エレの一言にティニーは頷く。
ペラッと次のページをめくった。

「“685年7月16日朝、雲行きが怪しい。
若干だが霧も出てきたようだ。
出港した時はそんなことないと思っていたのだが……霧が晴れるまで身動きがとれそうにない。
なんとか遭難しない事を祈ろう。
孫や部下に何かあったら私の責任だ。”

この日が事件の日みたいだね。
確か僕たちがこの船に乗り込む時も同じような天気だったとおもう。
17年前の船になにが……」

続いてめくる。

「“685年7月16日、突然の出来事だった。
船が動かなくなってしまったのだ。
紋章機関制御室を調べたが、エンジンの紋章力が凄い勢いで減っていた。
これでは向かう事も帰る事もできなくなってしまう。
恐らくエンジン部に何かトラブルがあったに違いない。
そう思った私はこの船の動力を司る機関室へと至急向かった。
しかしそこには……”

って、そんな……ここで続きが途絶えてるなんて……」

物語でいうクライマックスシーンが、そこからは完全に途絶えていたのだ。

と、本に違和感を感じたエレが、一番最後のページを開く。
すると、本のポケットにどこかの部屋のものと思われる鍵が入っていた。

「この鍵って、もしかして……」

「……そう、機関室への鍵」

本の内容を見るに、そう考えるのが今の2人にとって自然だった。

本を机の上に置いてゆき、鍵を手に入れた2人は部屋の外へ出る。

「急ごうエレさん、もし機関室に“何かがいる”としたら……恐らくお姉ちゃん達もそこへ向かったんだと思う」

ティニーのその推測もあながち外れではないと思ったエレはコクリと頷く。

そうして2人はリオナ達も向かったと思われる機関室へと急ぐのだった。

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