第10話『聞いて欲しいことがあるんです』
一方その頃、同時刻、リオナの場所とは少し遠い場所―。
「やあ、おかえりレヴィアちゃん」
レヴィアを微笑みにて迎え入れる男。椅子に座ったまま、近くに置いてあったコーヒーを飲み、レヴィアを見た。
「ただいま戻りました」
丁寧に返すレヴィア。
「それで、どうだった?」
その男の問に対しレヴィアは少し呆れた声で、
「・・・噂通りの、血筋絶えない人でした。その上全くの恩知らず、全く何故あのような人が・・・」
そのレヴィアの言葉を聞いて、その男は微笑を漏らし始めた。
「・・・何がおかしいのですか?アキト」
アキトという男は椅子からスクッと立ち上がり、
「いやいや、レヴィアちゃんがここまで感情的になるのは久しぶりなことだったんでつい・・・ね」
その言葉に、レヴィアはあくまで冷静な顔で返す。
「・・・からかっているのですか?」
アキトはクスクスと笑い、
「いや、彼女に死なれてもらっては困るからね。ガイとの約束を果たすには彼女の行く末も見守る必要があるんだよ。物語も主人公が死んでしまったらお話にならないだろ?それと一緒さ」
アキトはそう、レヴィアに淡々と語った。
「・・まあいいのですが・・・」
「とりあえず今回の僕からの仕事はこれだけさ。また何かあったら伝書鳩にでも連絡させるから・・・ああ、それと大会には出るのかい?」
話ついでにアキトがそう尋ねると、
「はい。・・何故でしょうか?」
レヴィアは質問を返す。が、アキトは、
「ああ、いや、なんでもないさ。それじゃあ、大会頑張ってね」
と、まともに返さず、曖昧な返答で終わらせた。レヴィアは、頭を下げ、アキトの部屋から出て行った。と、その前に、
「ああ、アキト、それから私のことは『レヴィアちゃん』とは呼ばないでください」
釘を刺して、レヴィアは今度こそ出て行った。
「やれやれ・・・」
そういいながら、アキトはコーヒーを飲もうとする、が、中身が既に空だということに気づくと、コーヒーを淹れるためにアキトは奥へと消えていったのだった。
レヴィアが外に出てすぐのところで、一人の少女が何やら数人のチンピラに睨み付けられていた。親玉らしき男は、
「おーい嬢ちゃんよぉ、人にぶつかったら謝るのが筋ってもんだ。この世界の掟なんだよ。わかるぅ?」
その言葉に、今にも泣きそうな顔をしている少女は、
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい」
と、何度も謝る。しかしそれを聞かないのはチンピラのお約束だった。
「あ~ん?聞こえねーぞ?もうちょっと大きな声で言ってくれないと、オニーサン、君のこと許さないぞ?」
「アニキ、こういう子は裏にいけば高く売れるかもしれないッスよ!」
と、親玉の傍にいたチンピラの一人がそういうと、フムフム成る程と、納得した顔で、
「おいガキ、こんなチンケな所で働いてないで、もっといい所があるぜえ?連れてってやるからこい!」
グイッと女の子の腕を引っ張るも、女の子は、
「やだやだ!は、はなしてえ!」
少女は必死の抵抗をしていた。
「へへ、おめえらも見てねえで手伝え、こいつは金になる」
と、チンピラたちが連れ去ろうとしたそのとき、
ドンッ!
親玉は何かにぶつかった。
「あーん?なんだ?」
見ると、目の前には、レヴィアが立っていた。
「やめなさい。あなたのしていることは、非人道的ですよ。そうですね、20点減点」
そう言い放つも、親玉は、
「っせぇなあ、邪魔すっとぶっ殺しちまうぞ?」
その言葉に、レヴィアはため息を吐き、
「よくもそんな事いえますね、子供の目の前で言うのは大変に非道徳的です。さらに20点の減点です」
レヴィアの冷静すぎる態度に、親玉は頭に来たのか、
「イケすかねえ女だ。死にてえらしい」
チャキンッ・・・と、小型のナイフをポケットから取り出すと、
「そのエリート気取りの性格と減らねえその舌、断ち切ってやるぜえええ!!!」
切りかかろうとする親玉、しかし彼女も黙って切られるわけもなく、あっさりと避けた。下がるメガネを片手でスチャッと上げる。
「・・・その上短気。これは10点減点です」
その言葉にさらに怒りを煮やす親玉は、
「このクソったれ女がぁぁあ!!」
ナイフを振り回し、レヴィアへと攻撃するも、全て避けられた。痺れを切らした親玉はここで、
「はぁはぁ・・・クソ、女、この子供がどうなっても構わねえってことか?」
チャキッと、ナイフの刃を子供の首下に向ける。
「こいつ死なせたくなかったら黙って俺の言うことを聞け」
「いやぁぁ・・お姉ちゃん助けてぇ・・・」
涙をこぼす女の子にナイフをむけたまま言い放っているその親玉を見ながら、レヴィアは睨み、
「・・・非情、ですね。そこまでするのならば私としても手加減の必要はなさそうですね」
そういって、レヴィアは足をザッと、一歩だけ前へ出す。
「来るんじゃねえ!と、さっき忠告したはずだが耳元に巨大なミミクソでもつまってんのかァ!?」
チャキッと、ナイフを首元へ更に近づける。ナイフの刃が少女の首の皮1枚目に、冷たく触れる。
「うっううう・・・・」
恐怖が頂点に達しているのか、少女の顔はすでにびしょ濡れだった。
「おい、お前ら、この女に抵抗するとどうなるか教えてやれ」
親玉がそういって、子分達は、へいっ!と言って、レヴィアへと近づく。
「おい女ァ、お前が少しでも俺達に妙な抵抗するもんならアニキがあの小娘の首をふっとばしちまうわけだがわかってんなァ?これからお前がするべきことをよォ・・・」
そうやって、子分の一人がレヴィアの顎を、手で撫でるかのように触れる。しかしレヴィアの目は冷たく、
「ええ、・・・できています」
レヴィアは突然、腕を挙げ、そして―。
パチンッ。
レヴィアが指を鳴らすと、突然、子分達が全員居眠りを始めてしまった。恐らくは水の魔道によるものなのであろう。
「あなたたちを・・・厳重に取り締まります」
そういって、中指でメガネをあげると、コツ・・コツ・・と、レヴィアは親玉へと近づく。
「て、てめえ・・・何しやがった・・・いや、そんなことよりも・・こ、小娘がどうなってもいいのか!?」
少し怯えた表情で親玉が言うと、レヴィアは、
「・・・あなたは誰にそう言ってるのか、自分で理解できないのでしょうか。彼ならこういうかもしれませんね、『愚か者とはケンカ売る相手を間違えるヤツの事だ』・・・ですか」
と、語り終わったその刹那、スパンッ・・・と、何かが切れる音がした。その音に気づいた親玉がナイフを見ると、柄本からくっきり、ナイフの刃の部分が全て削ぎとられていたのだ。水をカッター状に極薄にし、切断したのであろう。そのナイフをみて腰を落とす親玉。
「ま、まさかお前、G-Aの連中か?!」
今更ながら、といった所か、レヴィアは呆れながら、
「・・あなたたちはもう少し現実について見つめなおす必要があります。または勉学に励んでください。それではさようなら。今回のテストは0点、見本にもなりません」
そういって、片手を親玉に突き出すと、手の甲から発射された水に吹き飛ばされ、壁にぶち当たると、親玉はそのまま気絶してしまった。
「あなた、大丈夫ですか?」
そういって、膝をついていた少女へと手を伸ばす。
「ありがとうございました・・・ひっく」
そう言って、泣きべそ掻きながらも立ち上がる。
「はい、このハンカチで」
サッと、レヴィアは持っていたハンカチを少女に渡すと、少女は、
「あ、ありがとう・・・」
そういって、顔を拭いた。拭き終わって暫くし、落ち着いた頃に、その少女はこう言った。
「・・・ねえ、G-Aさん、よかったら私のお家にきてくれませんか?お願いします」
そういって、ペコリと頭を下げた少女を見て、レヴィアは、ニコッと微笑んで、
「ええ、いいですよ」
と、頭を撫でながら言った。
「あとそれで、聞いて欲しいことがあるんです」
改まって言ったその少女の一言でレヴィアは疑問の顔になった。
「聞いて・・・欲しいこと・・ですか?」
その問に、少女はコクリと頷いたのだった。
不安の一言を漏らした少女。一体、どういった事柄なのだろうか―。
壮絶に繰り広げられると予想される大会の予感を前に、レヴィアに、残された時間は・・・、
あと4日――。
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- 2008-07-21
- 【RH】武術大会前編
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